無垢の時代
廃墟を彷徨うワガママ娘
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もらってもいいものなのだろうか。とりあえず姿勢を正しながらそんな事を思っていると、その女性は少年に向けて言った。
「光がガールフレンドを連れてくるなんて母さん嬉しいわ」
「……それはどちらかと言うと俺より彼女に対して失礼だろう」
苦虫を噛み潰したような顔で少年が呻く。馬鹿にされたのかそうでないのか正直判断に困るところだったけれど……そのやり取りはそれ以外の情報を伝えてきた。
「ここ、アンタの家がやってる店なの?」
女性――この少年の母親が離れてから問いかける。
「まぁな」
「ふぅん」
予想通りの答えに気のない返事を返しながら、出された紅茶を一口すする。これでも舌は肥えている方だと自負している。だから驚いた。
(あ、美味しい!)
普段から飲んでいるものに負けない――いや、下手をすればそれ以上だ。街の喫茶店でこんなに美味しい紅茶にめぐり合えるとは思わなかった。続いてシュークリームを一口かじる。こちらも期待以上だった。今まで食べた中で一番美味しい。散々走り回された事などすっかり忘れ、思わぬ幸福に舌鼓を打つ。
「ここ、何て店?」
「翠屋だが?」
「そう。覚えておくわね」
「……何か微妙に不穏な響きだな」
アタシがせっかく褒めているのにこの言いよう。多少腹が立ったが、せっかく見つけた名店を忘れてしまうには惜しい。そう思う程度にはこの店の事が気に入った。
「それで、結局何の用だったの?」
「うん?」
「まさか自分の家の店を自慢したかった訳じゃないでしょ?」
それならそれで別に構いはしないけど――と、声にはせずに呟く。
「ただ一緒に帰ろうと思っただけで、別に特別用事はないよ。この店に来たのはそれこそ事故みたいなものだ」
「あの子……妹さんと喧嘩してまで?」
「あれは俺が一方的に蹴られただけで喧嘩なんてものじゃあないよ」
「でも怒ってたわよ?」
「あれは拗ねてるだけさ」
「それでいいわけ? 大事な妹さんなんでしょ?」
「それは否定しないが、別に必ず毎日一緒に帰ってる訳でもないからな」
ふぅん――と、気のない返事を返してから、しばらくの間紅茶を楽しむ。何となく何かを誤魔化されている気もするし、特別何も考えていなさそうでもある。
(ま、いいか)
初めての体験とちょっとのスリル。それに美味しい紅茶とシュークリームがついたのだ。充分に有意義な時間だったと言える。
「さて、と。それじゃアタシはそろそろ帰るわ」
充分に紅茶とシュークリームを堪能してから告げる。
「そうか。それじゃ送っていこう」
当然のように、その少年は言った。けれど、アタシは首を振って言った。
「別にいいわよ。迎えに来てくれる人はいるし」
といっても、専属の運転手ではない。彼は急性の胃腸炎でしばらく休養に入ってしまった。その代わ
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