無垢の時代
廃墟を彷徨うワガママ娘
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かない。それなら――
(待ってあげるしかできないなら、アタシはずっと怒りながら待ってる)
気持ちを分かち合えない寂しさと、親友の力になれない自分に。そして、無事を祈る。親友と、まだ知らない誰かの無事を。……きっと、どんな時でも忌々しいくらいに飄々としているであろう年上の少年に。あの時のように、親友達を守ってくれると信じて。
2
「アリサ・バニングスはいるか?」
妹が所属している教室から出てきた少年に問いかけると、その子はびくりと肩をすくめ、露骨に視線を逸らした。やれやれ、別に取って喰ったりはしないのだが。ともあれ、その視線を辿ると、その先にいる金髪の少女と目があった。なるほど、やはり彼女がそうだったか。その娘に睨みつけられながら、一人納得した。
さて。
アリサ・バニングスという後輩がいる事を俺が知ったのは、ほんの些細な偶然からだった。その偶然を逃していれば、ひょっとしたら永遠に出会わなかったかもしれない。……いや、そうでもないか。その娘がお人好し揃いの我が家に関わった時点で、あるいは必然だと言ってしまっても良いのかもしれない。
ともあれ、その切っ掛けを語るにはまず二週間程時を遡らなければならない。
「やぁ、光。掃除当番か? 御苦労さま」
「……士郎?」
夕暮れ時。その日掃除当番だった俺が中身のないゴミ箱片手に教室へ戻る途中、学校の廊下にそろそろ聞き慣れてきた声が響いた。とはいえ、それはこの場所で聞き慣れた訳ではない。むしろ、予想外だった。だからつい、名前で呼んでしまった。俺――『高町光』にとって、その人物は父親に当たる。少なくとも戸籍の上ではそうなっているし、実際に本人はそういう役割を担おうとしている。分担された役割を全うできていないのは、どちらかと言えば俺の方だろう。まだかつての自分の記憶の半分も取り戻せていないが……それでもどうやらもう四桁は生きているらしいという事くらいは思い出している。今さら誰かを父親と呼ぶのはどうにもこそばゆい。だから、ついつい名前で呼んでしまう。ここが自宅なら……いや、余人の目がない場所であればそれでも構わなかっただろうが、士郎の傍らには彼と同年代程度の男性の姿があった。その男性は、一見して異国人である事が明らかだった。この世界――いや、この国では珍しいと言っていいかもしれない。
「息子さんかね?」
しかし、その壮年の男性はこの国の言葉で流暢に言った。その声に、僅かな驚きと好奇心があったのはおそらく、俺が士郎を名前で呼んだからだろう。
「ええ。ウチの次男坊です」
気さくな様子で、士郎がその男性に向かって頷く。顔見知りなのだろうか。そうだとしても別に驚きはしない。何せ俺と士郎が出会ったのがそもそも異国の地なのだ。そして、士郎はそこで役人の用心棒をしていたと言う。その経歴を考え
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