第二話 たかが一杯。されど一杯。
[5/12]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
。少しコーヒーに凝っていた時期があったんだ」
チノが声を興奮で荒げているだけでも異常事態だというのに、私はある意味ガラスを爪でひっかく音よりも、今は聞きたくない声を耳にし、一瞬で学校での出来事が深く冷たい深海から一気に引き揚げられ、私の心の海は海面に巨大な津波を発生させた。
ココア「あ!リゼちゃん、ありがとう!!生クリームとミルク、同時に切れちゃって。これじゃあ、うちのアイデンティティであるラテアートが出来なくて、危うくお店が潰れちゃうところだったよ」
リゼ「いつからこの店はラテアート専門店になったんだ……。それよりも……なんでアイツがここにいる!?」
私はチノが定位置としているカウンターの内、白いブレザーを纏った背中を力一杯指さして叫んだ。
おかしい、絶対におかしい。
私の方が絶対に先に学園を出たはずだ。それなのに、何故、コイツが今、ここにいる!?
絶叫している私を尻目に、彼はうまそうにコーヒーを啜る。
実際、チノの淹れたコーヒーは絶品だが、今はそこは重要ではない。
雄二「ふむ、このブレンドは……マンデリン・スマトラ4割、コロンビアが3割、ブラジル・サントスとキリマンジャロをトントン、といったところか?すこし王道から外したブレンドだが、なかなかどうして、美味だ」
チノ「す、すごいです。このブレンドを今までに初見で見破ったのは、お父さんとおじいちゃんだけです」
ティッピー「お主、なかなかの舌じゃの……どうじゃ、うちで働いて見る気はないか?……将来的にチノと二人でm、フゴッ!?」
ティッピーよくチノの頭に乗っている、アンゴラウサギという毛玉のようなシルエットが特徴のうさぎだ。
そんなティッピーだが、時折、六十年代の初老男性かのごとき渋い声で腹話術でチノが人間のように喋らせる事がある。その腹話術は全く見事で、全く唇が振動している様子がない。
そんな見事な腹話術だが、今日は何故か位置を直す振りをして、話すのをキャンセルさせてしまった。何か気に入らない点でもあったのだろうか?
だが、そんな一幕に彼が気づいた様子はなく、何かを真剣に思い悩んでいるらしかった。
雄二「……バイト、か。そうか、バイトか……。ふむ、なかなか魅力的な提案だ。前向きに検討しよう」
チノ「一緒に働いてくれるのですか!?」
あのいつも冷静沈着なチノが、カウンターから身を乗り出して彼の言葉に耳を傾けている。
ココアがこの店で働きたい、といったら「家事もお店も、バイトの方と私でどうにかなってますので」と即いらない子発言を飛ばしていたというのに、扱いの差がもはや月とアンドロメダ銀河ほど違う。
雄二「未だ検討中だが、大変に魅力的な提案だ。特に断る理由もない。俺個人には、な」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ