第五章
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「皆大好きなんだ」
「皆って猫ちゃん達が」
「うん、そうなんだ」
こう笑顔で言ってだ、そのうえで。
ピアノを弾ける状況にしてその椅子に座ってだった、彼等にまた言った。
「聴いてくれるかな」
「ピアノを」
「今から」
「うん、そうしてくれるから」
まずは彼等に言ったのである。
「これから」
「よかったら」
「それならね」
「お願いするね」
「聴いてね」
「じゃあね、見ていてね」
聴いて、ではなかった。見て、だった。
その言葉にだ、皆は首を傾げさせて問い返した。
「あれっ、今」
「そうよね」
「見てって言ったけれど」
「聴いてじゃなくて」
「何で見てなの?」
「どうして」
「わかるよ、すぐにね」
圭一はいぶかしむ彼等ににこにことして述べた、そして。
ピアノを弾きはじめた、曲はシューベルトの魔王だった。独唱がないがピアノで魔王の曲を演奏するとだった。
家の猫達が来た、二十匹のそれが。その猫達がだ。
ピアノを弾く圭一のところに来てそれぞれ座ったり寝たりして聴いていた。それを見てだった。
圭一の友人達もだ、納得して頷いて言った。
「ああ、成程」
「そういうことなんだ」
「だから見ていてなのね」
「猫ちゃん達を」
「そういうことなの」
「そうなんだ」
実際にその通りだとだ、圭一は魔王を演奏しつつ述べた。
「つまりは」
「そうなんだ、皆僕のピアノが好きだから」
それで、というのだ。
「いつもピアノを弾くとね」
「それでなんだ」
「こうして来て」
「そして聴いてくれる」
「そうなの」
「皆が聴いてくれるから」
また言う圭一だった。
「僕も演奏に身が入るんだ」
「それで田中君のピアノも」
「自然に上手になった
「皆がピアノを聴いてくれるから」
「それでどんどん弾いて」
「そうしているから」
「うん」
その通りだと答えてだ、そうしてだった。
圭一は魔王を最後まで聴いた、猫達も最後まで聴いた。
それが終わってからだ、圭一は友人達に言った。
「いや、猫っていいね」
「何かね」
「田中君のピアノの秘密もわかったし」
「それに猫好きだってこともわかって」
「いや、今日は」
「中々」
「普段と全然違って」
「ああ、普段はね」
普段の自分自身についてもだ、圭一は言った。
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