第四章
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「僕はね」
「いい役だけじゃなくて悪役もする」
「そうなんだな」
「それでか」
「楽しみもするんだな」
「楽しむよ」
実際にというのだ。
「そうしてくるよ」
「そうか、じゃあな」
「そっちも楽しみにしてるな」
「いい歌と演技見せてくれよ」
「是非」
周囲はその彼にエールを送った、そして。
ゴンドールノはスカルピアを歌った、その評価はというと。
「実によかったよ」
「極悪非道でな」
「もう根っからの悪人だったな」
「極悪人だったよ」
「死んだ時は思わず喝采を叫んだ」
「素晴らしかったわ」
「そう言ってくれて何よりだよ」
ゴンドールノはその言葉を受けて笑顔で返した。
「本当に、励みになったよ」
「それで今度はマクベスか」
「マクベス歌うんだったな」
ヴェルディの作品の一つだ、シェークスピアの戯曲を歌劇にしたものでありくすんだ音楽が実に素晴らしい。
「あの役もな」
「非常にいいな」
「悪人かっていうと悪人だけれどな」
マクベスは、というのだ。
「けれどスカルピアと違って流される」
「そんな悪人か、今度は」
夫人の囁きに乗ってだ、一見するとマクベスの悪人はこの夫人こそがだ。だがその悪はどうかというのだ。
「まあ元々な」
「マクベス自身にも悪があった」
「だからs夫人の囁きに乗った」
「そうした役をするのか」
「難しい役だな」
そのマクベスはというのだ。
「その役を歌うか、今度は」
「また頑張ってくれよ」
「今度の役も大変だけれど」
「僕の望みの一つだったんだよ」
ゴンドールノ、というのだ。
「バリトンになった時からね」
「ああ、声域を言われた時に」
「私達に言った言葉よね」
「望みがある」
「そう言ってたな」
「そうだよ、スカルピアもやりたかったし」
その歌劇きっての悪役の名も挙げた。
「それにね」
「それにか」
「マクベスもか」
「あの役もなのね」
「歌いたかったんだな」
「マクベスにね」
それにというのだ。
「ヴェルディの他の役もだよ」
「ヴェルディ=バリトンか」
ここでこの言葉が出た、そして。
周囲はだ、はっとなって言い合った。
「そうだ、ヴェルディはバリトンだ」
「バリトンが重要だ」
「どの作品もバリトンの存在が大きい」
「主役か主役でなくとも」
その占めるものはというのだ。
「作品のかなりの部分を占める」
「マクベスは主役だ」
まさに文字通りのだ、この人物の悪と破滅を書いた作品故に。
「そしてその他にも」
「ヴェルディ=バリトンは重要だ」
「ヴェルディはまずバリトンだ」
こう言っていいまでだ、その位置の重要さは。
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