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竜門珠希は『普通』になれない
第1章:ぼっちな姫は逆ハーレムの女王になる
倒れるときは前のめりでお願いします
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 目立たないようゆっくり身体を傾け、珠希はすこぶる体調が悪そうな男子生徒に声をかけてみる。

 面倒なのは嫌いな反面、世話好き――見事なまでの生まれつき長女体質のおかげで珠希は初対面の他人の前では猫を被り、尻拭いや泥被りもよほどの不都合がない限りは文句を言いつつもこなしてきた。自己の主張や体調よりも周囲や組織が円滑に動くことが珠希の中では常に最優先事項なのだ。
 その挙句の果てが自分含めた五人家族の炊事・洗濯・掃除と、母親の仕事場となっている離れや土蔵を持つ広大な敷地の家事すべてを一手に引き受けている現在なのだが。


「……ぅ、ん。なん、とか……」

 囁き声よりも小さいレベルの珠希の声が聞こえたのか、口元を軽く隠しながらその男子生徒は台詞だけ気丈な答えを返してきた。
 とはいえ、こういう返事が来た場合、ほとんど大丈夫ではない。
 ゲームやアニメの中だけではなく、現実的に見ても。


 珠希も今までの人生十数年の経験と知識から何となくそれを感じてきていたものの、ハンカチでも貸しておいて様子を見るべきか、それとも先手を打って近くに立っている先生を呼ぶべきかを迷っていた。
 なお、ここで悩むのは決して長女体質ではなく、ただ単に珠希が目立ったり注目されたりするのが苦手なのが原因である。

 その一方、もういい加減にしろと思い始めてきた祝辞に周囲の誰もが注意を奪われているのか、珠希の隣に座る男子生徒の異常に気付いているような素振りはなかった。


 そして――。

「――っ。ぁ……、め……」

 小さく男子生徒が何かを呟いたかと思うと、ついにその身体の動きが一段と大きくブレた。

「え? ちょっ……」

 お偉いさんの祝辞という催眠電波が断続的に放射されている壇上から思わず視線を外し、珠希が顔を向けてしまった先、なぜかその男子生徒の身体は前や後ろではなく、男子生徒から見て右隣――ちょうど珠希のほうに倒れ掛かってきた。

「ちょ、待っ……」

 あ、これってやっぱり貧血? 今さらながらに男子生徒の様子からそんな症状を予想した珠希だったが、時既に遅し――。


「…………あの、えっと、これは……、ですね――」


 こちらに向かって倒れてきた物体(=見ず知らずの男子生徒)を珠希が反射的に受け止めようとするのは仕方のないことであり、しっかり受け止めようとしたがために思わず席から立ち上がるのも、講堂内の座席が映画館にあるような備え付けの椅子だったために腰を下ろす場所が反動で元に戻り、静粛な式場に不似合いな音を立ててしまったのも仕方のないことである。

 だが、もう一度確認しておくと――竜門珠希。長女体質にして基本的に自己評価が低く小心者な彼女は目立つことと注目を浴びることが大の苦手である。そし
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