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竜門珠希は『普通』になれない
第1章:ぼっちな姫は逆ハーレムの女王になる
倒れるときは前のめりでお願いします
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かも。

 横目で教師たちの立ち位置を確認しつつ、もう一度小さな欠伸を浮かべる珠希が今戦っている最大の敵は強烈な眠気――ではなく、途中で乱入してきた、少しでも座り方を変えた途端に襲う腰の痛みだった。何やら稜陽高校の歴史についてまで踏み込み始めた陳腐な祝辞の中身など前方数メートル先で既に雲散霧消しており、珠希の耳には届いてすらいなかった。


 本日のこの式をもって女子高生としての生活がスタートするというにもかかわらず、おそらく普段の生活態度が原因であろう腰痛に悩むとは、なんと腑抜けた体たらく――と思うのは早合点。この少女の腰痛は明らかな職業病。仕事中は常に座りっぱなしで、仕事に必要なほとんどの動作は手が届く範囲で済んでしまうことが問題だった。

 だが学生の、それも高校生ができるバイトでそこまで身体を動かさない職種というと交通量調査か家族同然の付き合いにある別家族の子どもの家庭教師くらいだ。それ以外は若さを最大の武器と見込まれての体力勝負的なものが多い。ただしSAN値も無慈悲にガリガリ削られていくものも多いが。

 それらとは対照的に、この少女の「仕事」はアルバイトやバイト感覚などで済まされない責任が伴った本物(ガチ)の「仕事」である。取り返しのつかない過失を犯せばその責任は取らされるし、命こそ奪われはなしなくても謝罪や賠償を含めた社会的制裁も受ける。それだけの重い「契約」が飛び交う世界でもうかれこれ4年を生きて延びてきている。
 その間、交渉の場で交わした契約は両手両足の指でも数え切れず、差分含めて数十万枚以上のイラストを描き、【天河みすず】もしくは【天河みすず】主宰の同人サークル【Pearly Queens】名義で稼いだ金額(経常利益)はたった数年で余裕で一般サラリーマンの生涯獲得賃金を超えていたりする。オタク産業さまさまである。

 とはいえ、当初は珠希も軽い気持ちで――臨時のお小遣い稼ぎと父親の仕事の手伝い気分で始めたグラフィック作業の腕前を見込まれ、ergブランド【CalmWind】にサポートグラフィッカーとして名前――もちろん源氏名――を貸すことになったのは中学1年生の頃の話。その後、呑み込みの早さと先方の要求しているレベルの作品(モノ)をほぼ確実に捉えてくるセンスの良さをもってUIやロゴのデザイン原案、背景・背景彩色の作業にも参加し、スクリプトの補助までしながら、元からあったイラストレーターの素質を開花させて原画を描くようになったのは中学2年になる手前だ。
 そしてメイン原画として制作参加した『Stardust Memories -星降る街の、あの丘で-』は体験版の時点からキャラデザとグラフィック面での高評価を得た末、ブランド唯一にして驚異の累計販売本数4万本超えを果たしている。

 そんな驚異的な売り上げ数で
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