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ランス 〜another story〜
プロローグ
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生きられない。自分の身体の事は自分がよく判る。

「リサーナ……」

 縋りつくその女性にそっと手を伸ばし頬に触れる。言葉には出来ないほど、この女性から貰っているんだ。何度言っても言い足りない。でも、1つだけ、1つだけ選べるとしたら。残せる言葉を、かける言葉を選ぶとしたら。

――……この言葉しかない。

『こんなオレを、愛してくれて、ありがとう』

 そう言うと、背を向けた。もう、あまり時間が無いのだ。自分の時間も……彼女の時間も、そして この状況も。

「……ここはオレがしんがりに立つ。……逃げるんだ」

 男は刃こぼれを起こしている刃を鞘から引き抜いた。

「ッ!!い、いや……嫌よ……!1人は、いやっ……一緒じゃなきゃっ……」

 何度も何度も首を左右に振る。行きたくない。1人じゃ嫌だと。だが、男は笑いを浮かべた。

「1人じゃないさ。オレは見守っている。……例え魂は≪アイツ≫の元へ還って逝ったとしても。オレはおまえを。お前≪たち≫を見守っている。……必ず」
「ッ……」

 リサーナは自身の腹部に手を当てた。そう、自分は身篭っているのだ。この戦いの世界で……愛する男性との愛の結晶。子を授かっているんだ。

――自分ひとりの命じゃない。

「頼む……生き延びてくれ」

 男は最後に一筋の涙を流す。……指先でぬぐい取ると、何かを素早く呟いた。

 指先には、光が宿り、そして彼女の身体を包み込む。

「……行け」

 最後には頭の中まで、魂にまで響くかのような声で、彼女の身体を押した。これが、本当に最後なのだ。彼女は……そう思った。この温もりを感じる事が出来るのも、最後だと。

「ッ……ッ……!!」

 涙を流しながらリサーナは……駆け出した。ここに残ると言う事は、彼の思いを踏みにじる事になる。それが判っても、どうしても後から後から、流れ出てくるのは涙だ。
 幾ら拭っても拭っても流れ出てくる。

 走る最中にも、思い出すのはあの日々。

 辛い事もあったけれど、幸せだったあの日々。

(……を、頼んだ)

 男は決して振り返らない。

 もう……、そこまで≪光≫はきているのだから。

『漸く捕らえたぞ……。陰なる者よ』

 光を放ちながら聞こえてくる声が低く場に響く。

『同胞達が殺られた痛み……その全てを貴様に返してやろう!』
『そうだ……。貴様1人か? もう1人いた筈だ。……逃がしたのだろうが。最早無駄だ。誰一人ここからは逃げられない』

 次々と集まってくる光たち。もはや光、などとは形容したくない。……暗黒だ。闇と光が逆転したかの様な存在。
 眩しい、闇だ。

 その闇は森一面に広がっているかのようだ。……無限とも思える。


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