18部分:第十八章
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まってしまった。それで沙耶香を見上げた。運の尽きであった。
一瞬だが沙耶香の目が赤く光った。その目で少女の目を見る。それで終わりであった。
「いい。風邪をすぐになおしてあげるわ」
「お願いします」
その言葉にこくりと頷く。そして沙耶香の手の中に落ちた。
「それでね」
コートの中に少女を包み込んだうえで声をかけてきた。
「お家は何処かしら」
「すぐ側のマンションです」
少女は夢うつつといった言葉で答えた。
「今はお父さんもお母さんもいません」
「そう。なら好都合ね」
その言葉を聞いて目を細めさせる。
「じゃあいいわね。一旦お家へ戻るわ」
「ええ」
言われるがままに頷く。頷いたのは操られてであろうか。それとも自分の意志であろうか。それは沙耶香だけが知っていることである。
「それでなおるわ」
そのまま彼女を自宅へ連れて行く。マンションのエレベーターを二人で上がっていく。
「随分いいマンションね」
「そうですか?」
「そうよ。場所もいいし」
少女に対して答える。
「景色もいいわ。今は人によっては残念と思うでしょうけれど」
くすりと笑って述べた。
「それでもこれはこれでいいかもね」
「そうなんですか」
その言葉に半ば感情が消えた言葉で返した。まだ沙耶香の術が残っているのであろうか。
「そうよ。けれどね」
彼女は言う。
「これから少しの間はその雪が関係ない世界に入るわよ。いいわね」
「雪が関係ない世界ですか」
「そうよ」
声の響きが妖しくなった。右手で少女の顎を取ってその白く可愛らしい顔を見る。幼さが残りあどけない感じである。美少女と言ってもよかった。妖精に似た感じの。
「それでね」
沙耶香はその少女に問うてきた。
「貴女、付き合っている男の子か男の人はいるかしら」
「いえ」
少女は顎を取られたまま首を横に振ってきた。その顔はじっと沙耶香を見ている。
「そう、いないのね」
「ええ。そんな人は」
「じゃあまだ何も知らないのね。それもいいわ」
目が細まる。獲物を手に入れた鷹の目になっていた。
「青い果実を食べるのもまた」
「青い果実?」
「いいのよ。こちらの言葉だから」
それには答えない。ここで少女の部屋のある階に着いた。
「もうなのね」
「はい、ここです」
少女は答えてきた。
「家の中ですよね」
「そうよ」
沙耶香は答える。
「そこでね」
「風邪をなおしてくれるんですよね」
「ええ。私がね」
答えながらも少女を見ている。エレベーターから出て部屋に向かう間その肩を抱いている。顔を近付けて少女の香りを楽しみながらだ。それは淡いミルクの香りであった。
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