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逆さの砂時計
解放
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、血を吐いた。
 顔が青ざめて、脂汗が滲んでる。

 ダメだ。
 このままじゃ、ベゼドラが。
 クロスツェルが死んでしまう。

 男を止めようと、立ち上がって走り出すが。
 扉に指先が届く寸前で、壁と首輪を繋ぐ鎖に食い止められる。
 前へ走った分だけ首に圧力が掛かり、咳込みそうになって。

 突然、全身の力が抜けて、膝から崩れ落ちた。
 ほぼ同時に、男の手から薄い緑色に光る弓矢が現れる。

 力を、持っていかれてる。

 理屈はわからないが、そう感じた。
 クロスツェルに、その心臓に、狙いを定めてる。

「……やめろ……っ」

 心臓が爆発する。
 耳鳴りが更に酷くなる。
 頭まで痛み出した。
 弓が引き絞られて……

「やめろ! クロスツェルを殺すなあぁぁああああああッッ!!」

 映像が、薄い緑色の閃光で埋め尽くされる。
 それは一瞬の間を置いて飛散し。
 光る雪となって、礼拝堂の床一面に降り注いだ。

 男の手から弓矢が消え。
 二人の男の驚いた表情が、光る雪を仰ぎ見る。

「………………神父を、護りたいのか? アリア」

 男の言葉が、すんなりと耳に入ってきた。
 耳鳴りが消えてる。
 頭痛もしない。
 代わりに、大粒の涙が勝手に溢れ出した。

「……そうか」

 クロスツェルの体から足を退けた男の右手が。
 今度はクロスツェルの額を鷲掴み。
 二人の間に、小さな光が弾け飛ぶ。
 手を離されたベゼドラの目が、丸い。

「っ……?」

 頭の奥で、澄んだ鈴の音がする。
 一度目は りん! と短く。
 二度目は りぃーん…… と尾を引くように。
 響きがかすれて消えると、全身に力が戻ってくるのを感じた。

「小賢しい封印は元に戻した。おいで、アリア」

 振り返った男が、映像の向こうから、まっすぐに『私を』見てる。
 礼拝堂に居る男が。
 教会の地下で鎖に繋がれている私を。
 その手を取れとでも言うのか、笑顔で右手を差し出しながら。

 解る。
 私はもう、跳べる。
 跳び方を思い出した。
 だから。

「クロスツェル!」

 男の手を無視して、その背後。
 倒れたままのクロスツェルの横に向かって、転移した。
 鎖自体は体に触ってなかったからか、付いて来たのは首輪だけ。
 いきなり横に現れた私を見て、ベゼドラが動揺する。

「……な、ぜ」
「うるさい黙れ、バカ! この体はクロスツェルの物だ! クロスツェルを傷付けるな! クロスツェルを殺すな!!」
「……バカ は、どっちだ……っ。神 父は、とっく に 死んで……っ」

 また、血を吐いた。
 生気を失くしつつある顔は、青白いどころか土気色になってる
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