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逆さの砂時計
解放
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だかなあ……」

 私に関することと、礼拝堂でのことを除けば。
 クロスツェルの行動はあの夜以前のまま、何一つ変わってない。
 毎日来てるらしい信徒達も、すっかり騙されてる。
 騙す目的で演じてるにしても、妙に手慣れてる。
 『体が覚えてる』ってやつか?

 こういう、どうでもいい小さな点に気付くと、あの夜からの出来事が全部ウェーリとクロスツェルが仕組んだ狂言なら良いのにと、思わなくもない。

 ……いや。
 それも嫌だな、やっぱり。
 変態キングの格が上がったら、次はなんて呼べば良いんだよ。
 そしてそっちは本当にどうでもいい。

 パイプベッドの横に移動して、あくまでも床に座る。
 タオルを頭に掛けたまま膝を抱えて、その上に顎を乗せた。

 今頃、ベゼドラはどうしてるだろう。
 食事を置いてったなら、そろそろ夜明けの時刻。
 教会の門や扉を開錠しながら礼拝客を迎え入れる準備を始めてる頃か。

 目蓋を閉じて、頭の中に礼拝堂の内部を思い浮かべる。
 そこに立ってると錯覚するほど鮮明な映像が、目蓋の裏に映し出された。

「………………?」

 神父じゃない人影が、祭壇の前に居る。
 真っ黒い上下服と黒い靴で白い肌を覆う、短い金髪の男。
 足が長い。クロスツェルと同じくらいの身長だ。
 教会のシンボルと同じ、葉っぱをくわえた鳥の形のペンダントをしてる。

 信徒?
 にしては、ずいぶん早い礼拝だな。

 何の気なしに紫色の目を覗き見て。
 全身に寒気が走った。
 思わず目蓋を開いてしまっても、映像は視界に留まってる。

 ベゼドラが礼拝堂に入ってきた。
 早朝の訪問者に首を傾げてる。

「ダメ……」

 男に近寄ろうとするベゼドラを遮りたくても。
 伸ばした手は、映像の中には届かない。
 膝立ちになった勢いで、タオルが音もなく床に落ちた。

「ダメだ!」

 私は、この男を知らない。
 会ったことも、見たこともない。

 なのに、解る。
 この男に関わってはいけないと、心臓が早鐘を打って警告してる。

 ベゼドラが驚いた様子で、数歩分飛び退いた。
 何か言ってるが、耳鳴りが酷くて聞こえない。
 男が真顔になって……

「離れろバカああっ!!」

 礼拝堂内に紫色の雷が落ちる。
 地下室にも、振動と爆音が直接響く。
 吹き飛ばされたクロスツェルが、背中から壁に激突して。
 少なくない量の、黒っぽい血を、吐いた。

 あの色と量は、ヤバい。
 絶対に内臓がやられてる。

 ガラス瓶で突き刺した手の感触を思い出して、肩が震えた。

「! やめろ!」

 男が床に倒れたクロスツェルの腹部を蹴飛ばして、踏みつける。
 また
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