暁 〜小説投稿サイト〜
黒魔術師松本沙耶香 妖霧篇
7部分:第七章
[8/8]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
。沙耶香はそれを感じて後ろ、それも左斜め下を横目で見下ろしながら言った。丁度そこから声が聞こえてきたからである。
「人間はね、凄いのよ」
「凄い」
「そうよ。だって神にも悪魔にもなれるのだから」
「嘘だ」
「嘘だと思うのなら私の炎は何かしら」
「うぐうっ」
 そう言われては沈黙するしかなかった。彼はそれにより倒されてしまったのだから。
「これが何よりの証拠よね。人間の凄さの」
「それで僕を倒したのだからだって言いたいんだね」
「その通りよ。人間を馬鹿にしていたでしょう」
「否定はしないよ」
 霧はそれを認めた。
「人間は。僕にそのまま冥界にまで送り届けられるだけの存在でしかなかった筈なのに」
「それが間違いだったのよ」
 沙耶香はさらに言う。
「それがわからなかったから。貴方はこうなった。否定はできないわよね」
「・・・・・・・・・」
「もっとも私が神か悪魔なんてことはどうでもいいわ。どちらにしろ簡単になれるのだから」
「そんな馬鹿な」
「あら、簡単よ。だって」
 彼女の顔から一瞬表情がなくなった。そしてすぐに別の表情になった。
「人間はその間にいるのだから。神になるのも悪魔になるのも」
 不思議な顔であった。
「一歩踏み出すだけなのよ」
 右半分は純粋で穢れのない笑みであった。だが左半分は。
 さっきの笑みであった。魔界の笑み。一つの顔に二つの表情が同時に浮かんでいたのであった。
「わかったかしら」
 だが返事はなかった。
「もう消えてしまったのね。早いわね」
 既に霧は滅んでしまっていた。気配は完全に消え失せてしまっていた。こうして沙耶香はこの一連の事件を解決したのであった。
 霧が滅んだのを確かめるとその場を後にした。街灯が照らすロンドンの夜道を歩いて行く。今までの朧な光ではなくなっていた。はっきりとした明るい光であった。
 だがその中においても沙耶香は闇の中にいた。そしてその中で動いていた。それはまさしく夜の中に咲く一輪の黒い花であった。


[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ