7部分:第七章
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「そろそろお別れしたいのよ。名残り惜しいけれど」
「炎なんかで」
霧は苦し紛れの様な声を出した。
「やられるわけには」
「そうこなくてはね」
沙耶香の笑みが変わった。
「面白くないわ。闘いは長くないと」
そう言いながら斜めに動く。笑みは魔界のものから戦士のものとなっていた。笑みを変えながら鞭を取り出す。
「楽しくないから。いくわよ」
そして鞭を出した。それにも炎を宿らせる。
「これはどうかしら」
黒い舌のようであった。禍々しい闇の炎が霧を切り裂く。それだけで何かが蒸発する音が聞こえ闇が蠢く。霧はそれを見てまた声をあげた。
「うぐっ」
「あら、痛いのかしら」
沙耶香の声がまた楽しげなものとなった。
「それは痛いでしょうね。身体が切り裂かれるのだから」
「そこまで」
「ええ。知っているわよ」
笑みをたたえたまま言う。
「知っているというよりわかったと言った方がいいかしらね」
「うぐぐ」
「貴方は霧そのもの。霧の妖精なのだからね」
「わかったの」
「ええ、わかるわ。貴方の声は霧の中から聞こえてきた」
沙耶香は霧の中を動き、そして切り裂きながら言う。
「霧が腕となって襲い掛かってきたわ。その腕は貴方の腕だったわね」
「それもわかったの」
「何でもね。そして私の炎を怖れたのを見て確信したわ」
「しまった」
霧はその言葉を聞いた時己の迂闊さを呪った。
「貴方が霧そのものだということをね。それではいいかしら」
ダメージはかなり蓄積されてきていた。既に霧には沙耶香を攻撃する力は残ってはいなかった。
それを察して沙耶香も攻撃を変えてきた。鞭をしまい動くのを止めた。
「これで。最後にするわ」
そして身体全体にその黒い炎を宿らせた。それはまるで影の様に彼女の身体を覆った。
「さようなら」
そしてそれをあらゆる方角に放つ。それで最後であった。
霧が消えていく。まさに雲散霧消であった。跡形もなく、シュウシュウという蒸発する音だけ残して霧は消えていった。
「グググ・・・・・・」
だが彼はまだ生きていた。断末魔の苦しみに耐えながらも沙耶香を見据えていた。人には決して見ることのできない目で。
「まさかこんなことが」
「人間にやられるなんて思ってもいなかったようね」
炎は既に消えていた。沙耶香は霧が消えた夜の闇の中に身体を置きながらその言葉に応えてきた。
「まさか。そしてここで消えるなんて」
「お姉さんは一体」
「私?私は只の人間よ」
今度は妖艶な笑みを浮かべて言った。
「嘘だ」
「本当のことよ」
霧に応える。
「ただの黒魔術師よ。それ以外の何者でもないわ」
「けれどその力は」
「只の人間を甘く見ないことよ」
霧の声は地の底に消え失せようとしていた
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