7部分:第七章
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なかった。
霧が人の形をとったものだ。おそらくはこの霧が作り出した人形であろう。
「色々と器用なことね」
「霧の中だったら何でもできるよ」
相変わらずおかしそうに言う。
「何でもね。ここは僕の世界だから」
「それは本当ね」
沙耶香は一旦はそれを認めた。
「この中にいる限り貴方には勝てないわね」
「よくわかってるじゃない」
「それじゃあこちらにもやり方があるわ」
その手の中に宿らせたものが大きくなっていく。
「これなら。どうかしら」
「それは」
それは黒い何かであった。ユラユラと蠢いている。まるで生き物の様であった。
「これが何かまではわからないようね」
沙耶香はそれを悠然と漂わせながら言葉を続ける。
「これは炎よ」
「炎!?」
それを聞いた霧の声がうわずった。
「あら、どうかしたのかしら」
「まさか、そんなものが」
「怖いの?」
沙耶香はうわずる霧の声を楽しみながら問うてきた。
「まさか。こんなものが」
「こ、怖くなんか」
「意地はよくないわよ」
顔にも笑みを浮かべていた。明らかに霧が怯えているのを感じていた。
「それは怖いでしょうね」
「それは・・・・・・」
「霧は水。水は火によって消えるもの」
彼女は言った。
「怖くない筈がないわね。けれど不思議でしょう」
その赤い切れ長の目が歪に曲がっていた。三日月の形で上に曲がっていた。それはまるで狼が笑ったような目であった。
「炎が黒いだなんて。当然よね」
目だけではなかった。口もまた同じであった。不気味な笑みであった。整った顔に浮かび上がる魔性。それはまさに魔界の笑みであった。
「そんなことは有り得ないことなのだから」
「それがどうして」
「これが魔術よ」
沙耶香は言った。
「魔術」
「そう、黒魔術。けれどこれはケルトのものでもゲルマンのものでもないわよ」
「それじゃあ一体」
「私が生み出した炎。言うならば私の気かしら」
「気だって!?何だいそれは」
「日本では気を使った術があるわ」
自身の祖国にある術について言及した。
「それは自分の中にあるオーラのようなものを使うのよ。そしてそれで敵を討つ」
「敵を」
「私はそれにアレンジを加えたのよ。黒魔術と合体させて。そしてそこに日本古来の術も混ぜ合わせたの」
「それがその黒い炎」
「そうよ。本当は別の色になったのでしょうけれど生憎私は黒魔術師」
自身を半ば嘲笑するようにして言った。魔界の笑みはそのままである。
「黒い炎になってしまったわ。けれどそれはそれでいいこと」
笑ったまま言葉を続ける。
「私は黒魔術師だから。別に構わないわ」
言いながら再び構えをとる。その両手に炎を宿らせたまま。
「覚悟はいいかしら」
「くっ」
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