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黒魔術師松本沙耶香 妖霧篇
6部分:第六章
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もらうよ」
 霧はまた言った。そして腕をもう一本出してきた。
「生憎腕は何本でもあるし」
「あら」
「これで足りなければまた出すから。早く諦めた方がいいよ」
「もう一つ言っておくけれど」
 言いながら懐から何かを取り出した。
「私は諦めが悪いのよ。それは覚えておいてね」
「つまり情が深いってことだね」
「しつこいのと情が深いのはまた別よ」
 言いながら懐から取り出したものを構える。それは一本の黒い刀身の短剣であった。
 一振りするとそれが剣に変化した。黒い剣であった。
 それで向かって来る腕を切り払った。腕は一振りで文字通り雲散霧消してしまったのである。
 そしてもう一本の腕も切り払う。腕はまた霧に戻って消えてしまったのであった。
「これでよし」
「さっき僕が言ったこと忘れたのかな。これでよしって」
「いえ、覚えているわよ」
 剣を構えながら答える。
「何本でもあるのよね、確か」
「そうだよ、僕は霧だから」
 彼はまた言った。沙耶香はそれを聞きながらこの魔物の正体を探っていた。
(霧・・・・・・)
 そこに何か答えがあるようであった。
(香りで人の前に現われる。そして霧)
 その二つに何かがあるようだった。だがそれが何かまではまだわかりはしない。
 考えている間に周りに無数の腕が現われた。そして沙耶香に襲い掛かってきた。
「今度はかわせるかな」
「心配は無用よ」
 それに応えながら頭の後ろに手を回した。
「剣が駄目でも。私にはこれがあるから」
 髪を止めている紐を解いた。そして髪を下ろした。長い黒い髪が周りのぼんやりとした霧の中の灯りに映し出される。それはまるで夜の中の闇が彼女に舞い降りたかのようであった。
 それは自然に動いた。まるで髪自身が生物であるかのように。動きながらそれは徐々に伸びていった。
「いくわよ」
 その声と共に髪の動きが活発となった。そして霧の腕達に向かって突き進む。 
 無数の髪がそれぞれの腕を突き刺した。それで腕は消えていった。どうやらこの髪にも何かしらの魔法が宿っているようである。腕を全て消し去った後も沙耶香の身体を守るようにして宙に漂っていた。
「どうかしら、これで」
「お見事」
 霧は囃し立てるようにして言った。
「凄いね。感心したよ」
「そのわりには心が篭っていないようだけれど」
「いやいや、まさか」
 霧は沙耶香を嘲笑うようにして言葉を続ける。
「その証拠に今日はこれでお邪魔させてもらうよ」
「あら、諦めがいいのね」
「だってまた会えるから」
「また」
「その香りが案内してくれるからね。それじゃあ」
 そう言い残して霧は何処かへと消え去ってしまった。後には沙耶香だけが残された。彼女は一人そこに立って考え込んでいた。
「香りが」

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