6部分:第六章
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
る。彼はそれを知ったうえでこれを薦めてきたのである。
「まあどうぞ。これは私のおごりです」
「有り難う」
すっと笑った後でそのスコッチを手に取った。そして口に運ぶ。
口の中に二つの味と香りが漂った。スコッチのそれと黄色い薔薇のそれである。白い薔薇や赤い薔薇とはまた違った黄色い薔薇独特の味であった。沙耶香はその二つの味を味わいながらそのスコッチを飲んだ。
「如何でしょうか、我が店特製のスコッチは」
「見事ね」
口からスコッチと薔薇の香りを漂わせながら答えた。
「本当に心が落ち着いてきたわ」
「そうでございましょう」
「お願いがあるのだけれど」
「はい」
「今飲んでいるスコッチにも薔薇を入れてくれないかしら。その黄色い薔薇をね」
「わかりました。それでは」
それに応えまずは沙耶香の前にあるスコッチのボトルを受け取った。暫らくしてまた一杯の薔薇が入ったスコッチが出されてきた。
「どうぞ」
「有り難う」
それを受け取りまた飲む。また口の中に薔薇とスコッチの芳香が漂った。
飲みながら心を落ち着かせる。同時に研ぎ澄ませていた。これからの為に。
ボトル一本空けると店を出た。そして夜道を一人歩いていた。
やはり霧の深い夜だった。街灯の光でさえぼんやりとしている。闇の中に漂うその光を頼りに道を進んでいく。ホテルまでもうすぐの場所で霧が動いた。
「オレンジとレモンと聖クレメントの鐘が言う」
あのマザーグースの歌声が聞こえてきた。
「五ファージング借りたままだぞと聖マーティンの鐘が言う」
その歌声は次第に近付いてきていた。そして沙耶香の側で気配が止まった。
「やあお姉さん」
声は沙耶香に語り掛けてきた。
「暫くだったね。元気そうで何よりだよ」
「そうね」
沙耶香はその声がする方に顔を向けて応えた。顔にはうっすらと笑みを浮かべていた。
「今度は来てもらうからね」
「私は子供でも誘いは断らない主義なのだけれど」
言いながら構えをとる。
「強引な誘いは嫌いなのよ。断らせてもらうわ」
「悪いけどそういうわけにはいかないんだ」
霧は言った。
「お姉さんがその香りを身に纏っているからね。来てもらうよ」
(香り!?)
それを聞いた沙耶香の眉がピクリと動いた。
(まさかその香りは)
ここで何かが繋がった。沙耶香もそれがわかった。
「それじゃあ」
言葉と共に霧が動いた。
「これで。痛くはないけれど我慢してね」
「むっ」
霧が腕となった。そして沙耶香に襲い掛かってきた。沙耶香はそれを後ろに跳んでかわした。
「僕の腕をかわしたね」
「男の腕力には慣れているから」
彼女は涼しい声で以ってこう返した。
「この程度じゃ。怖くとも何ともないわ」
「じゃあもっと手荒にいかせて
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ