5部分:第五章
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た。
「そろそろはじめようかしら、真面目に」
そう言いながら懐から煙草を取り出す。一本の巻き煙草であった。
それを口に咥えると指を近付けた。その白く細い指の先から出した火で火を点けた。そして煙草を吸って一先口から離した。
その口から白い煙を吐き出す。煙草の火で部屋をほんの少し照らしていた。そこに映るものは本当に何もなかった。埃と殺風景なコンクリートの壁だけであった。
指をパチン、と鳴らす。それだけで埃は何処かへと消え去ってしまった。これで部屋の掃除は終わった。
煙草を吸い終わるとその煙草も消した。それから部屋の中央に向かうとそこで立ち止まり何かを詠唱しはじめた。
「・・・・・・・・・」
それが何処の国の言葉なのかおそらく誰にもわからないであろう。少なくとも日本語でも英語でもなかった。今この世に残っているどの国の言葉でもなかった。
そして何時の時代の言葉なのかもわかりはしなかった。全く誰にもわからない、未知の言葉であった。彼女はその言葉を一人呟き続けていた。そしてそれを呟き終えるとその足下に魔法陣が浮かび出て来た。
「おいで」
一言そう言うとスーツのポケットから先程受け取った赤い薔薇の花びらが出て来た。そしてそれは沙耶香の目の前でユラユラと舞っていた。
「御前は何処から来たの?」
花びらに問う。一見すると悪ふざけのような光景である。だがそうではないことは彼女の目を見ればすぐにわかることであった。そう、彼女は今真剣であった。
「そう、御前は唯の薔薇なのね」
花びらを見ながら言った。
「それで御前を買った人を襲ったのは?」
また問うた。そうして問い続ける。そしえあることを聞いた。
「そう、あの歌を」
その歌の名を聞いた沙耶香の顔が変わった。
「わかったわ」
そしてそこまで聞いて頷いた。
「御前にはその歌なのね」
それを聞くと腕をかざした。そして花びらの下に手の平を置いた。
「おいで」
花びらはその言葉に従い舞い降りた。そして雪の様に細いその手の平の中に消えていった。まるで氷が溶けていくように消えていった。
花びらが消えたのを見届けると沙耶香は下を見下ろした。それだけで魔法陣は消え去ってしまった。
「今回の事件にはあの歌が」
そう呟くと部屋を後にした。そしてハーネスト達のところに戻るのであった。
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