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黒魔術師松本沙耶香 妖霧篇
5部分:第五章
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の事件に協力して下さっている。失礼のないようにな」
「わかりました。それでは宜しくお願いします」
「はい」
 沙耶香は静かにその言葉に頷いた。頷きながらこの若い警官も信用できる人物だと認識していた。
 実はロンドンは人種的偏見の強い街である。よくある有色人種への偏見である。これはアメリカだけかと思われるが実は欧州のそれはアメリカのそれよりも遥かにそれが顕著なのである。
「アメリカでは人間として扱われるが欧州ではそうではない」
 ある黒人の若者が欧州に旅行に行った帰りに白人の親しい友人に語った言葉である。アメリカの白人と欧州の白人ではそうした意味において違っている一面もあるということである。特に最近では警官の間での人種的偏見が問題となっている。沙耶香もそれは知っている。だから今の警官の態度を見て信頼できると確認したのである。
「この薔薇の花びらですが」
「はい」 
 彼女はこの若い警官の説明に耳を傾けていた。
「花束にして持たれていたようで。紙の破片も見つかっております」
「紙の」
「昨夜の霧で大分濡れていますが。それでも僅かに残っていました」
「そうだったのですか」
「その紙や花びらの状況からして。行方不明になった学生は相当抵抗したようです」
「しかしそれも空しく何処かへと連れ去られてしまった」
「残念なことに。そしてここで彼の足跡も消えています」
「犯人の残した証拠は」
「何も」
 若い警官は口惜しそうに首を横に振った。
「目撃した話も。何もありません」
 それはわかることであった。彼女はその犯人の正体を知っている。だがそれはヤードで知っている者はいない。だから彼女も探偵と身分を偽って捜査にあたっているのだ。
「車等は」
「それすらも。下水道まで探したのですが。何もなしです」
「そうなのですか」
 話をしながらそれは当然だと思っていた。しかしあえて口には出さない。
「何もわからないです。手懸かりと言えるものも何もなしですから」
「残念ですね」
「この薔薇の花びらだけでしょうか」
「薔薇」
 ここでふとハーネストとマクガイヤに語ったマザーグースのことを思い出した。リング=リング=ローゼィーズである。
「赤薔薇ですね。それもかなり見事な」
「しかしそれだけでは」
「わかっています。何にもなりません」
 それはこの若い警官が一番よくわかっていることであった。
「こんなので。何を調べろと」
「私に任せて頂けませんか」
「貴女に」
「はい」
 沙耶香は頷いて答えた。
「この薔薇が。何かの答えになるかも知れませんですから」
「答えに、ですか」
「お任せ願えますか」
 そう言ってもう一回問うてきた。
「如何でしょうか」
「警部」
 彼一人では判断できかねないようだった。彼はハーネ
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