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黒魔術師松本沙耶香 妖霧篇
4部分:第四章
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魔女オルトルートが登場する。この魔女は森に潜み怪しげな術を使いエルザを窮地に陥れた。だが彼女はそもそもキリストの世界の住人ではないのだ。かっての神々の世界の住人なのである。これは沙耶香もまた同じであった。彼女もまたその古代ゲルマンやケルトの神々の力を使う。黒魔術もまた神々の力を使うものなのである。それが人の為に使うのか、自分の為に使うのか。そしてキリスト教世界の主観から見て正しいのか邪悪なのか。それによって名称が異なるのである。そうした意味で彼女は黒魔術師であると言えた。
「では止めますか」
「いえ、それでいいわ」
 だが彼女はそれをよしとした。
「あのオペラは好きではなくてもワーグナー自体は好きだし」
「左様でございますか」
「あの森と城の曲は。いいと思わないかしら」
「私はそこまでワーグナーに詳しくはないのであまり言えませんが」
「あら」
「それでもワグネリアンの方はよくそう仰いますね。森や城を感じられると」
「ドイツは森や城が多いしね」
「はい」
「そしてこのイギリスも。それにイギリスは霧も多いわ」
「どうですか、ロンドンの霧は」
「不思議ね」
 今その霧の中に潜む異形の者の相手をしているから尚更であった。しかしそれは口には出しては言わなかった。あくまで自身のことは秘密にしておいた。
「手をかざしたらもうその手が見えなくなるのだから。こんな霧はここだけでしょうね」
「ロンドンの霧は特別です」
 彼もそれは認めた。
「ある意味生物のようです」
「生物」
「というよりは魔物でしょうか」
「ロンドンだけに棲む」
「そうですね。他の街にはここまでの霧は出ないですから。そうした意味で本当に魔物です」
「その中に何かが潜んでいたらまた面白いわね」
「驚かさないで下さいよ」
 そう言われて少し怯えた動作を見せた。
「そんなのがいたら怖くて街を歩けませんよ」
「特に夜は」
「その話、御存知でしたか」
「ゴシップでね。読んだことはあるわ」
 そう答えて自分がその話に関わっていることは隠した。
「人が次々と消えているそうね」
「はい」
「おかしな話ね。もしかして切り裂きジャックが甦ったのかも」
「だったら今頃切り裂かれた死体が転がっていますよ」
「ジャックだったらね」
「それに。あいつが殺したのは中年の娼婦ばかりだったし」
 これが切り裂きジャックの謎の一つであった。どういうわけか彼は中年の皺や白髪も目立つような盛りを過ぎた娼婦ばかりを狙って惨殺していったのである。その内臓すらも切り裂いて。その行動から彼の正体についてはその当時から様々な推測が為されていた。しかしそれが確証にまでなったことは一度としてなかったのだ。
「今度のは行方不明ですから。違うと思いますよ」
「じゃあ何かしら」
「正直に
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