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黒魔術師松本沙耶香 妖霧篇
4部分:第四章
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ガリンですが。如何でしょうか」
「これもいいわね」
 沙耶香はマーガリンも認めた。
「普通のマーガリンとはまた違った味になって。いいわ」
「有り難うございます」
「そして紅茶も。昨日のとは葉が違うわね」
「昨日のはスマトラの葉でした」
 彼は答えた。
「ですが今日は。セイロンのものを使いました」
「普通のセイロンとはまた味が違うわね」
「これもまた我がホテル特性でして」
 どうやらかなり凝り性のホテルとシェフであるらしい。紅茶の葉まで特性であるようだ。
「特別契約した葉なのでございます」
「つまり厳選された茶の葉ということね」
「そうでございます」
「面白いわね。何でもそうして選んで」
「今までの評判を覆したいので」
 彼は笑ってこう言葉を返した。
「我がホテルはロンドン、そしてイギリスの食事はとかくまずいという根拠のない悪評を払底したいと考えておりますから」
「根拠のない悪評ね」
 口には出さなかったがそれはどうか、と思った。彼女自身今まで何度もイギリス、そしてロンドンに来たことはあるが料理を美味しいと思った記憶はないからである。かって日本海軍はロイヤル=ネービーを模範とし将校はイギリス風のディナーを食べていたというが味だけは模範としなかっただろうとすら考えていた程なのである。
「その為に日々努力しておりますので」
「少なくとも私はいいと思うわ」
 ハムエッグもトーストも食べ終え紅茶を飲み干した後でこう言った。
「最後のお茶も。見事だし」
「やはり最後は最高でないといけませんからな」
「そうね」
 それは沙耶香も同じ考えであった。
「朝はこれで充分だけれどデザートとワインがね。昨日はどちらも頼まなかったけれど」
「では今夜はどうでしょうか」
「頼めるかしら」
「勿論です」
 彼は笑顔で頷いた。
「ピーチ=メルバなぞは如何でしょうか」
「ピーチ=メルバね」
 そのデザートの名を聞いて笑みを作った。これはかってワーグナー等のオペラでその名を知られたオペラ歌手メルバの名を冠したものである。ワーグナーのロマン派オペラ『ローエングリン』をモチーフとしておりアイスクリームの上に白い桃を置き、そこに砂糖で作った白鳥の翼を乗せているというものである。アイスクリームはこの楽劇の第三幕の前半で出る初夜の新婚のベッドを、そして白鳥は第一幕で危機に陥っている美貌の姫エルザを救う為に聖杯の城モンサルヴァートからやって来る白銀の騎士ローエングリンが舟をひかせている白鳥である。デザート自体がワーグナーの楽劇とそのヒロインであるエルザを得意としたメルバへのモチーフとなっているのである。
「私はあのオペラは好きではないのだけれど」
 彼女は黒魔術師である。この作品においては人々の無意識の下に追いやられた神々を信仰する
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