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黒魔術師松本沙耶香 妖霧篇
3部分:第三章
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でして。正式に届出はしておりますのでそちらは御心配なく」
「ロンドンでも裏でやっている者は多いのですね」
「それは日本でも同じではないですか、こう言っては何ですが」
 警官だけあってその辺りはよくわかっていた。
「その通りです」
 沙耶香は笑ってこう述べた。
「私も遊ぶことでは苦労しません」
「やはり」
「東京にも大阪にも立っている女はいますよ。ロンドンと同じでね」
「おかげでこの街の娼婦は有名でして」
 ハーネストも言った。
「切り裂きジャック以来。数はパリの方が多いというのに」
 ここで言葉にいささかシニカルな響きが宿った。やはり彼もイギリス人ということであろうか。少なくともフランスにはいい感情を抱いてはいないようである。
「困ったものです」
「私が会った女の子達は二人共美人でしたよ」
「そうですか」
「趣味のよい店でしたね。薔薇の香水をつけて」
「薔薇の香水を」
「二人共白の薔薇の香水でした」
 つけていた香水に関して言及する。
「薔薇は色によって香りが微妙に違うのですが」
「そうだったのですか」
 どうやら二人は薔薇やその香りに関してはそれ程詳しくはないらしい。殆ど沙耶香の独壇場であった。
「その辺りもよく考えられたいい香水でしたよ。おかげで気に入りました」
「それはよかったですね」
「はい」 
 沙耶香は頷いた。
「しかしそこに通ったのが理由で魔物に狙われたとなると」
「以後考えられるべきでは?」
「いえ、これは好都合だと考えております」
 彼女の返事はこうであった。
「これであの魔物を釣りだせるのですから」
「御自身を囮に」
「そうです」
 声が強くなった。
「また通います。そして釣りだしてみせます」
「そして倒すと」
「しかし危険なのでは」
「黒魔術師に危険ですか」
 それを聞いた笑みが先程のハーネストと同じようにシニカルな色彩を帯びた。だがハーネストのそれとはまた違った色彩のシニカルさであった。それは危険に対して向けられたシニカルであった。
「それはまた」
「意に介されないと」
「介していては。この仕事はやっていけませんから」
 そしてこう言った。
「黒魔術は大きな力を得るかわりに一歩間違えればその心も身体も闇の中に落ちるものです」
「はい」
 二人はそれを聞いて口の中にあった唾を飲み込んだ。
「そのことを思えば。多少の危険なぞ」
「そうなのですか」
「ですから。囮に関しては御気になさらずに」
「わかりました」
 二人は不安であったがここは彼女に頷くことにした。
「それではそのところはお任せします」
「はい。それでは」
「ええ」
 おおよその捜査方法は決まった。こうしてヤードを出て宿泊先のホテルで夕食を採った後釣りも兼ねてあのホテルに
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