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黒魔術師松本沙耶香 妖霧篇
3部分:第三章
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そこに何かあると思うのですが」
「そうは言われましても」
「例えば私ですが」
 ここで襲われながらも只一人生きている沙耶香本人が口を開いた。
「はい」
「私はアジア系です」
「それはもう承知ですが」
「そして同性愛者でもあります」
 次に自らの性的嗜好を告白した。
「同性愛者」
「例えば。同性愛者が襲われたということはないですか」
「それは」
 彼等はそれを聞いて顔を顰めさせた。
「少し待って下さい。すぐにはわかりません」
「そうですか」
「ですがそれぞれ調べていけばわかりますので。それで宜しいでしょうか」
「わかりました。では今日はそれへの調査ですね」
「はい。宜しくお願いします」
 こうして三人は犠牲者の調査に入った。その中には捜査官達も入っていた。調査はその日の真夜中になってようやく終わった。結果面白いことがわかった。
「成程」
 ハーネストがまず呻いた。
「同性愛ではなかったですが」
「まさかこんな結果だったとは」
「意外でしたね」
 沙耶香がそれに応えて頷いた。調査の結果は実に面白いものであった。
「皆娼館に入ることが好きだったとは」
「思いもよりませんでした」
「警察官でもそうしたことがあるのですか」
「我々もまた人間ですからね」
 ハーネストはそれを否定しようとはしなかった。
「何処かで。そうしたことも必要です」
「中には男娼館に入る同性愛者もいたようですね」
「私もそうですから」
「男にも興味がおありですか」
「私は博愛主義者ですので」
 笑いながらうそぶいた。
「性別にこだわることはありません。例え誰であっても気に入れば」
 笑っていた。その笑みはこの場には似つかわしくはないが時間には似つかわしい妖艶なものであった。そしてその笑みが実に彼女に似合っていた。
「それはまた」
 マクガイヤはそれを見て苦笑した。
「我が国はよく同性愛者が多いと言われますが」
「両刀使いとは。また面白いですね」
「恋愛というものは本来性別なぞ関係ないものですから」
 今度は持論を述べてきた。
「本来は。インモラルでも何でもないでしょう」
「日本では特にそうらしいですね」
「御存知でしたか」
「我が国の同性愛者達の間では評判ですよ」
 ハーネストはこう答えた。
「歴史上同性愛で処罰された者がいない国だと」
「ええ、その通りです」
 これは事実であった。今でも同性愛は多少奇異の目で見られはするが絶対的な罪悪とは思われてはいない。平安時代にはとある公卿が自身の日記に同性愛のことを楽しげに書いている。当時の日記は他の者も読むことを念頭に置いて書かれるので彼はそれを特に罪悪とは思っていなかったのだ。
 とりわけ戦国時代には同性愛は盛んであり織田信長が同性愛者であったことは
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