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黒魔術師松本沙耶香 妖霧篇
3部分:第三章
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した。過去に何度も欧州を恐怖の底に陥れた恐るべき病気である。またの名を黒死病という。これにより一時欧州の人口の四分の一若しくは三分の一が死んだと言われている。
「ペストは寒気がしますね」
「はい」
「クシャミはそれです。そして赤い薔薇は」
「紅疹ですか」
「そう。つまりこれも死の唄ということなのです」
「それではロンドン橋もそうですね」
「はい」
 ハーネストの問いに頷いた。
「これはもうおわかりですね」
「あまりにも有名な話ですから」
 彼はその言葉に頷いた。
「私はロンドンで生まれ育ったのですがあの橋についてはよくない噂がありましてね」
「あれのことですか」
 それを受けてマクガイヤが彼に声をかけてきた。
「君も知っていたか」
「人柱ですよね。何でも若い女性が生け贄に捧げられたという」
「そうだ。キリスト教世界ではない筈のものだがな」
「ですがケルトの社会では長い間行われてきましたね」
「流石に御存知で」
「かってケルト人達はその儀式において生け贄を捧げてきました」
 これはカエサルの書にもある。ケルト人達は生け贄を捧げる風習を持っていたのだ。それが長い間イギリス人の中に生きていたのである。例えケルトの神々が落ちぶれ妖精になってしまっていても。
「ロンドンの名前自体がケルト語ですしね」
「はい」
「それが残っていても不思議ではないでしょう」
「確かに」
 ハーネストはそれを認めて頷いた。
「否定できませんね。キリストの中にあっても」
 聖書においては生け贄は否定されている。そのかわりがキリストの血であるワインとキリストの肉であるパンなのである。だがこれにも欧州において長い間息づいてきていたカニバリズムが潜んでいると言われている。実際に欧州においてはカニバリズムは中国のそれのように顕在化していたものであった。グリム童話やペロー童話においてもそれは語られここで沙耶香達が語っているマザーグースにも歌われている。十字軍や三十年戦争においては普通に食人が行われてきた。これもまた欧州の歴史であった。
「あくまで伝説ですが。そう言われているのもまた事実です」
「すなわちこの三つの唄には共通するものがあります」
「死、ですか」
「はい。おそらくあの霧の中にいる存在は死を司る存在です」
 沙耶香は言った。
「死を」
「そう、この三つの唄を見る限り。おそらく今までの犠牲者は」
「この世にはいませんか」
「霧の中で。消されたのでしょう」
「まさに魔物ですね」
「とりあえず私がわかったのはこれです。そしてもう一つ気になることがあります」
「それは」
「この霧の魔物による犠牲者達です」
「犠牲者」
「彼等に何か変わったことはありませんでしたか」
「変わったこと」
「若しくは特徴があったとか。
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