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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百七十話 急転
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というわけでは無い。占拠が難しいなら破壊して回廊突破を図るという事は十分に有り得る事だ。それに占拠よりも破壊の方が攻撃の選択肢は多い』
艦橋がシンとした。皆声が出せずにいた。
「本部長、放棄は決定ですか?」
私が問うと本部長が頷いた。
『トリューニヒト議長に先程状況を説明した。已むを得ないという事で要塞放棄を納得してもらった』
彼方此方で溜息が聞こえた。難攻不落のイゼルローン要塞を放棄、誰もが予想しなかった結末だ。
『ビュコック司令長官』
「何ですかな」
『両回廊で帝国軍を防ぎ膠着状態を作り出すという当初の防衛計画は破綻した。宇宙艦隊は至急フェザーン回廊から撤退して欲しい。これより同盟は防衛計画を帝国軍を同盟領奥深くに引き摺り込んでの決戦に切り替える』
「……」
皆の表情が苦渋に満ちた。この状況で撤退? 簡単に出来る事ではない。必ず帝国軍は追撃してくるだろう。
『難しい事は分かっている。フェザーン方面、イゼルローン方面、どちらも帝国軍の追撃を受けるだろう。或いは態勢を整えている間に帝国軍が防衛線を突破しハイネセンに殺到するという事も有り得る』
「……」
彼方此方で頷く姿が有った。本部長が“だが”と声を張り上げた。皆が顔を上げスクリーンに視線を向けた。
『我々は軍人として最後まで祖国を守る努力を放棄するべきではない。そこに一パーセントの可能性が有るなら尽力するべきだ』
厳しい言葉だ、そして力強い言葉でもある。本部長は我々を奮い立たせ鼓舞しようとしている。ビュコック司令長官が大きく頷いた。
「分かりました、ただちに撤退しましょう。ところでフェザーンのペイワード自治領主は如何しますか?」
『彼には既に同盟に退去するようにとトリューニヒト議長が話をした』
「……」
『だが彼はそれを断った。和平交渉を続けるにはフェザーンに居る必要が有ると言って』
彼方此方でざわめきが起きた。
『残るのは危険だと議長が言ったのだが彼は頑として聞き入れなかった。フェザーン人は常に金儲けの事だけを考えているわけでは無い、己の信念に命を懸ける事も有ると……』
「……」
『自分はルビンスキーとは違う、最後まで自治領主として職責を全うするとも言っていた』
「……」
シンとした空気が流れた。ペイワードは死ぬ気だ。彼は帝国と同盟の和平を成し遂げフェザーンを中立国家として再生させようとしていた。その夢が潰える、その夢に殉じようというのか……。本部長が何かを振り払おうとするかのように首を横に振った。
『ビュコック司令長官、直ちに撤退行動に移って欲しい』
「はっ」
帝国暦 490年 3月 13日 イゼルローン回廊 帝国軍総旗艦ロキ ヴァレリー・リン・フィッツシモンズ
「閣下、先行するガイエス
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