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黒魔術師松本沙耶香 妖霧篇
2部分:第二章
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いいとは言われていないことを彼も知っているのだ。だからこそ言ったのである。
「ですがそれをわざわざ注文して頂けるとは。感謝します」
「私は好きですから」
 沙耶香はホテルマンのあまりいいとは言えないジョークにも笑わなかったがその感謝の言葉には笑った。
「オートミールもね。そしてこのオムレツも」
「有り難うございます」
 そして食べはじめた。優雅な、それでいて機敏な動きで食べる。それはまるで黒豹が食事を摂るかのようであった。
 食事の間ホテルマンは彼女の側で立っていた。どうやらこの部屋、そして彼女の専属となっているらしい。
 食べ終えると紅茶を飲んだ。それが済むとゴートに片付けられる。ホテルマンはそれが終わった後で彼女に尋ねてきた。
「如何でしたでしょうか」
「美味しかったわ」
 沙耶香は不安そうに尋ねてきた彼にそう答えた。
「シェフに御苦労様と伝えて下さい」
「有り難うございます」
「最近ロンドンでもこうした料理が食べられるようになったのですね」
「はい、おかげさまで」
 彼は笑顔で応えた。
「我が国もようやく味というものがわかってきたのです」
「あら、謙遜ね」
「いや、謙遜ではなく」
 これはほぼ事実であった。イギリスといえばその料理の貧弱なことで知られている。これは元々この国の土地が痩せていたことも大いに関係があった。シェークスピアが美食家であったという話がないのもこれである。彼の作品には食べ物はあまり出て来ない。
「我がホテルのシェフも。イギリスの料理を知ってもらおうと躍起です」
「ではそれに乗らせてもらおうかしら」
「といいますと」
「夕食もお願いね」
 沙耶香は優雅に笑ってこう言った。
「イギリスの豪華なディナーを頂きたいわ」
「畏まりました」
「お酒はスコッチを。それでお願いするわ」
「はい」
 彼はまた頷いた。それから尋ねた。
「お帰りは何時頃になるでしょうか」
「それがわからないのよね」
 彼女はここで苦笑した。
「何時になるか。けれどここで食べたいから」
「わかりました。それでは」
 彼はそれを聞いて応えた。
「お望みの時間にお持ちしますので。楽しみにお待ち下さい」
「有り難う」
 それを聞いて苦笑を微笑に変えた。そして身支度を整えてホテルを後にする。その脚でタクシーを捕まえた。
 ロンドンのタクシーは古風な昔ながらの車を使っていることで知られている。彼女はそれに乗り込み車中の人となった。そんな彼女に綺麗な銀髪の初老の運転手が声をかけてきた。
「どちらまでですか」
「スコットランド=ヤードまで」
 その機械的な声で答える。
「ヤードまでですか」
「ええ。お願いするわ」
「わかりました」
 警察関係か、と思ったが声には出さなかった。そしてそのままスコ
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