1部分:第一章
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彼女はゆっくりとある場所に向かっていた。
「ロンドン橋落ちた」
何処からか歌声が聞こえてきた。子供の声であった。英語の歌であるのは言うまでもない。
「落ちた落ちた」
「マザーグースね」
彼女はそれを聞いて呟いた。この唄はマザーグースの有名な曲の一つであった。ロンドン橋の唄であった。
「ロンドン橋落ちたロンドン橋」
歌は終わった。それは霧と闇の中に消えていった。だが気配は消えてはいなかった。それは彼女に近付いて来るようであった。
「ロンドン橋は別の方角だと思うのだけれど」
彼女はその気配を感じながら言った。
「何故ここに来るのかしら」
「それは貴女にロンドン橋に行ってもらいたいからだよ」
声が彼女にこう言った。先程の歌声と同じ子供の声であった。
「何でかしら」
「そこで。ロンドン橋の下のテムズ河で泳いでもらいたいからさ」
声はこう言った。それは近くなっていた。それと共に気配も近付いてきていた。
「嫌だと言ったら?」
彼女は声に対して問うた。
「私は水泳は好きじゃないのよ。これでわかったかしら」
「貴女のことは関係ないよ」
声はまた言った。それは不気味さを増していた。
「だってそれは僕が決めるんだもの。どうするかね」
「子供だからって我儘言うと厳しいわよ」
彼女はこう言い返した。
「私は子供にも厳しい主義だから」
「へえ、それは嬉しいね」
しかし声はそれに臆するところがなかった。
「じゃあ見せてよ。その厳しいところをさ」
「そこまで言うのなら」
彼女はそれに応えて身構えた。
「見せてあげるわ、坊や」
咄嗟に動いた。そして霧の中に姿を消した。
「これが私のしつけよ」
その声と共に霧の中から何かが飛び出て来た。それは無数の針であった。
「針!?」
「唯の針と思わないことね」
姿は見えないが声だけはした。それは明らかに彼女のものであった。
「この針を受けたら唯では済まないわよ」
「じゃあ受けなければいいんだ」
子供の声はそれを聞いて言った。
「簡単なことだね」
針は空中で静止した。そして全て落ちてしまった。アスファルトの上に金属音が空しく響いた。
「針を止めた」
「まさかこれがお姉さんのしつけなの?」
声はからかうようにして尋ねてきた。
「冗談だよね。こんなので」
「どうやら貴方にはもっと厳しいしつけが必要なようね」
霧の中からまた彼女の声がした。
「やってあげるわ。それもとっておきのを」
そう言うと鞭が飛んで来た。皮の黒い鞭であった。
「愛の鞭とでも言うつもり、今度は」
「生憎愛の鞭じゃないわ」
彼女はまた言い返した。
「魔法の鞭よ。悪い子をお仕置きする」
「魔法の鞭」
「貴方が何処にいてもこの鞭はやって来るわ。覚悟し
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