第6章 流されて異界
第122話 十二月十八日
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右半身には何時の間にか密着していた彼女の体温と……少しの体重を感じた。
「あなたの心音を感じる」
そっと囁かれた彼女の独り言が、ひとつの毛布に包まれた二人の距離を強く――
……って、マズイ!
自らの置かれた状況と、次の展開を頭の中で想像。そして、その僅かな時間の動揺すら、彼女に知られている事に気付く。
俺自身が彼女の心の動きが理解出来ているのなら、彼女が俺の心の動きを理解していないはずはない。
一度瞳を閉じ、静かに深呼吸。繋がれたままの右手は意識から切り離し、冷たい室内の空気にのみ集中。
そして、次の展開を冷静に予想。
これから、俺が取るべき行動は……。
有希に対して、部屋に帰って自分のベッドで寝ろ、……と告げる。基本はコレ。但し、其処には有希の身代わりの式神の類が存在しているはずなので、泊まりに来ている連中に有希が二人居るトコロを見られると厄介。
どのような術式を使用しているのか定かでは有りませんが、時間経過と共に自然と消えて仕舞う。そう言う術式が一番簡単。それ以外の術式はそれなりの手順を踏む必要がある。例えば、入れ替わる為に起きて行動する式神は、その行動を怪しまれない為に少しばかり高度な術を使用する必要がありますから。
更に、俺自身が布団の上に招き、共に同じ毛布に包まった状態にしたのに、話が終わったからさっさと部屋に戻れ、では流石に……。
おそらく、こんな夜に俺の部屋を訪れたのも、仙術を使って部屋を暖めて置かなかったばかりか、無言の圧力で俺に仙術を使わせずに傍に招き寄せさせたのも彼女の策略。要は近くに居たかった。多分、それだけの理由で。
もしかすると毎夜、こうやって部屋を訪れていた可能性もあるぐらいですから。
それに、もしもの場合は俺の扱い切れない龍気の制御を彼女に任せる必要が有り、その為には彼女の方に俺との呼吸やその他を普段から合わせて置く必要も有りますし。
その考え自体が既に何か危険な事件が起きる事を前提として考えている、と言う事に気付き、愛を語る絶好のシュチエーションを棒に振る可能性が大だと確信する俺。
もっとも似合わない事はするべきではない。それに――
枕元に置かれている腕時計の時刻はそろそろ明け方の五時を指す時間。これから二度寝を行えば寝坊は確実。本日は平常通り授業が行われるので、これから呑気に寝る訳には行かない。
まして、それ以外の行為に及ぶなどもっての外。そう言う事はもう少し心と時間に余裕がある時の方が良いでしょう。
日の出までは未だ一時間以上の時間がある。朝飯はトーストなどなら準備に時間は掛からない。
ならば……。
「弓月さんの事について、なんやけどな――」
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