第6章 流されて異界
第122話 十二月十八日
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しょうね。
人と言う存在……。当時の有希が人間とイコールで繋げられる感情を有して居たのか、そうでないのかは分かりませんが、同じような物を持って居たとしたのなら、どんな状況に置かれ続けたとしても、その状態に慣れて仕舞いますから。
その絶望的な状況に慣れて仕舞った……絶望と言う感情に摩耗して仕舞った精神など、いくら喰らっても奴らは満足などしないでしょうから。
クトゥルフの邪神と言う連中は、そう言う路線を突き詰め切った連中らしいので。
まして、この仮説から導き出せる答えは、その時に消滅した長門有希の魂と、今、俺の傍らに居る長門有希の魂の間に連続性がない可能性の方が高い、……と言う事。
邪神の贄にされた魂が輪廻の環に還る可能性は非常に低いので。
「成るほど、理解は出来たよ」
本当なら親しげに頭でもポンポンと軽く叩いて軽く言うトコロなのですが、俺の右手は未だ有希と繋がれたまま。強く繋がれている訳ではない。しかし、指と指を絡ませるような繋ぎ方で、簡単に外して仕舞うのは何故だか躊躇われる繋ぎ方。
まぁ、確かに予備知識もなしに事件が始まるのと、ある程度、何か起きるかも知れないと考えて居るのとでは準備や心構えが違いますから、これはこれで良かったのでしょう。
何の予備知識もなしに臨んだ球技大会は、もし相手の方に自らの危険を顧みずに俺の生命を奪う、と言う意志と目的があったのなら、俺の生命どころか、この世界にクトゥルフの邪神の本体が同時に二体顕現すると言う事態を引き起こしていたかも知れない危険な事件だったのです。同じ愚を犯す可能性は低くして置く方がよいでしょう。
もっとも、其処まで危険な事態が予想されたのなら、水晶宮関係の星読みやアカシック・リーディング能力者。それに、時間跳躍能力者などが危険を報せるはずなので、事態は俺の手からあっさりと離れて居たとは思いますが。
微かに首肯いた気配を発する有希。未だ、彼女の全ての蟠りが解消されたとも思えませんが、それでも俺の方に彼女を信用しない、と言う選択肢はないので問題ない。
但し、それは多分、今の俺自身が持つ記憶や経験から得た信用などではない。おそらく、もっと心のずっと奥深くに存在する想い。俺ではない、何処かの時代の俺の想いだと思う。
しん……っと、深く染みこむような冷気。防音設備の整ったマンションの一室は外界からの雑音からは遠ざけられ、厳重に回らされた結界は、あらゆる呪詛や魔術の侵入を防ぐ。
今、この瞬間ここに居るのは俺と有希。その、たったふたりだけ。
そう、耳を刺すかのような無音が寝室内を支配。彼女の小さな話し声に慣れた俺の耳には、その静寂は普段以上に冷たく、そして硬い物に感じている。
繋がれたままの右手と左手は、既に同じ体温を示すまで温められ、俺の
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