第6章 流されて異界
第122話 十二月十八日
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「――有希」
酷く希薄な――。しかし、俺に取っては何時も傍らに居る馴染みの気配のする方向に視線を送る。
そう、そしてこれが、このような中途半端な時間帯に目覚めた二つ目の要因。
常夜灯の明かり……暖色系の、更に明るすぎない光が作り出す仄暗い世界の中心。そこに彼女は存在していた。
少し深い。しかし、自ら染めでもしない限り、日本人には現われる事のない紫の髪の毛。およそ喜怒哀楽と言う物を表現しない表情。少し華奢な肢体。
日の出の遅い真冬のこの時期。昨夜床に入ったのは今日と昨日の境目当たり。その事から考えると今は朝の三時以降、六時前の間ぐらい。
「あなたに話して置きたい事がある」
小さく……まるで独り言をつぶやくように、話し掛けて来る有希。その瞬間、彼女の口元が白くけぶった。
横になった状態で畳の上に膝を揃えて座る少女を見つめる俺。
……魔法で室温を上げるか?
かなり色気のない、しかし、一般的な常識に照らしあわせたのなら、ギリギリ許容範囲内に納まるであろう選択肢を思い浮かべ――
「話を聞く前にひとつ質問しても良いか?」
彼女に話し掛けながら布団の上に正座。ちょうど、俺を見下ろす形となっていた少女と正対する。
小さく首肯く有希。何故か、少し思いつめたような雰囲気。
もっとも、こんな真夜中に俺の部屋を訪れたので、その話と言う物が、彼女に取っては重要な内容なのは間違いないので……。
「その話と言うのは長い話となるのか?」
手短に済むのなら、彼女が気付かない内に室温を上げる事は可能。ただ、この部屋に有希がやって来たと言う事は、ハルヒ達の元には分身を置いて来ていると思うので……。
多分、彼女は朝まで戻る心算はない、とは思うのですが……。
俺を真っ直ぐに見つめていた有希が、少しの間を置いて、小さく首を横に振った。
「あなたの脳に直接情報を送り込めば一瞬で終わる」
夜中故に……などと言う理由ではなく、普段通りの少し聞き取り難い小さな声で話す有希。但し、その言葉の中に小さくない否定。
多分、情報を伝えるだけならば、わざわざ夜中に俺の部屋を訪れる必要はない。俺たちの間でなら、【念話】で一気に大量の情報を送ると言う方法もある。そして、彼女は実際の言葉を使用しての会話よりも、【念話】を使っての会話の方が饒舌となる。
いくら忙しかったとは言っても、その程度の余裕はあった。しかし、それを行わなかったと言う事は――
少しの逡巡。肌を刺すような冷気は薄い夜着では防ぎ切る事が出来ず、そうかと言って……今、仙術を使って室温を上げる事は何故か躊躇われた。
正対する形となった彼女……薄暗い部屋。畳の上に正座する有希が少し上目使いに俺を見つめた。
その瞬間―
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