巻ノ六 根津甚八その十
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「顔も全然違うぞ」
「御主の顔はひょうきんな感じじゃからのう」
「それはよく言われてきた、もっとも頭は同じく剃っておる」
「坊主だからじゃな」
「左様、わしも弟も坊主じゃ」
そうだというのだ。
「読経もよくしておるしな」
「そういえば御主読経はしておるが」
ここでだ、穴山は清海のその読経について指摘した。
「馬鹿でかい声でし過ぎじゃ」
「わしの声が大きいとな」
「雷の様ではないか、しかも御主のいびきも」
それもというのだ。
「雷の如きではないか」
「全くじゃ、最初驚いたぞ」
「何かと思ったぞ」
由利と海野も清海の雷について思った。
「それがし達は忍故何時でも何処でも寝られるがな」
「それでもじゃ」
「あのいびきは何じゃ」
「あんな五月蝿いいびきは聞いたこともないわ」
「あのいびきで忍ぶことが出来るのか」
このことをだ、穴山は指摘した。
「その図体も気になるが」
「出来るが」
「まことか?」
「これでも忍術ならば誰にも負けぬ」
それこそというのだ。
「御主達にもな」
「全く、何処から見ても花和尚じゃがな」
水滸伝の豪傑の一人魯智深の名前がここでも出た。
「いざとなれば忍ぶのじゃぞ」
「それは心得ておる」
「さて、殿」
根津はあらためてだ、幸村に言った。
「岐阜からこのまま近江に入り」
「うむ、そしてな」
「安土を通ってですな」
「都に入る」
「そうされますな」
「都に入るのははじめてじゃ」
幸村は楽しみにしているものも見せていた。
「どういった場所かのう」
「そうですな、長い間戦で荒れていましたが」
「織田信長殿の上洛からじゃな」
「落ち着き今は相当に賑わっています」
「そうなのじゃな」
「左様です、それがしも都に入ったことがありますが」
それでもというのだ。
「人も増え店も多く栄えを戻しています」
「そうか、ではな」
「楽しみにされて下さい」
都に入ることをというのだ、そしてだった。
一行は美濃の西を進んでいく、その中で。
大垣に入ってだ、こんな話を聞いた。
「ほう、ここから少し西に行くとか」
「はい、橋がありますが」
幸村達は団子屋で団子を食っているがそこで店の親父から話を聞いていた。
「そこに武芸者が最近いまして」
「そしてか」
「橋を渡ろうとする者を見ていまして」
そのうえでというのだ。
「腕が立つと見ると勝負を挑んできます」
「何じゃ、弁慶か」
清海は団子を貪りつつ言った。
「それでは」
「そうですな、今弁慶とです」
「実際に言われておるか」
「美濃のです」
まさにそうだというのだ。
「そう言われています」
「そうか」
「随分と強いらしく」
「わしの様に大きいのか」
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