巻ノ六 根津甚八その九
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「この者ただ腕が立つだけではありませぬ」
「忍術もですな」
「そちらもかなりの腕でして」
「お強いですな、そして」
「実に心根のよき者」
そうした者だというのだ。
「ですから真田様の家臣としましても」
「ですか、では」
「はい、道を歩まれて下さい」
「道を」
「真田殿の道を甚八も連れて」
こう言ってだ、幸村に根津を預けた。それから弟子達に一旦稽古を休ませて彼等も交えた別れの宴をしてだった。根津を送るのだった。
そして別れの時だ、師は根津に言った。
「甚八、これから何があってもな」
「殿と共にですな」
「歩め」
こう言うのだった。
「何処までもな」
「その道は人の道ですな」
「そうじゃ、見たところ真田殿は」
師は幸村も見て言った。
「天下人やそうしたものになられる方では」
「拙者天下には興味がありませぬ」
幸村自身もこう答える。
「真田家の安泰、そして義がです」
「真田殿が思われることですな」
「確かに天下泰平を望んでいますが」
しかしというのだ。
「それがし自身が天下人になろうとはです」
「思っていませんな」
「左様です」
そうだというのだった。
「ただ、義は」
「それはですな」
「決して見失ってはならぬものと思っています」
「そうですな、真田殿は義の人」
まさにとだ、師も答えた。
「ではその義の道を歩まれて下さい」
「わかり申した」
「甚八、それが御主の歩く道じゃ」
師はあらためて根津に告げた。
「しかと。真田殿と何処までも歩むのじゃ」
「さすれば」
根津も頷く、そしてだった。
根津甚八もまた幸村の家臣となってだった、岐阜を後にして幸村と共に旅立つことになった。こうして幸村の家臣は五人となった。
根津を加えた一行は道場での別れの後で西に向かった、次に目指す場所は。
「このまま都に行くが」
「その途中にですな」
「清海の弟に会いたい」
こう根津に答えた。
「どの様な者が見たい」
「まあこ奴の弟ですから」
由利は自分の隣にいる清海を見つつ言った、既に岐阜を出て人気のない道を歩いている。
「図体はでかいでしょうな」
「わし程ではないがな」
実際にそうだとだ、清海も答える。
「伊佐も大きいぞ」
「やはりそうか」
「うむ、兄弟で図体が大きくてな」
そしてというのだ。
「飯はよく食う」
「そして大酒飲みか」
「いや、伊佐は真面目じゃから酒はな」
「飲まぬか」
「それ程な、飲んでも乱れぬ」
酒乱の清海とは違ってというのだ。
「まことに真面目な男じゃ」
「御主とは全然違うか」
「そうじゃ、兄弟で全く違う」
「一体どういう者なのか」
海野は清海の言葉を聞いて述べた。
「興味が湧くのう」
「ははは
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