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黒魔術師松本沙耶香 仮面篇
30部分:第三十章

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第三十章

 後に残ったのは仮面だけであった。仮面はそのまま地面に落ちていく。
 その途中で。仮面は言った。
「お姉さん」
「何かしら」
 沙耶香に対して。沙耶香もそれを聞く。
「コレクションは消えるから。だからね」
「何かしら」
「そのまま消しておいていいよ」
 そう沙耶香に告げた。
「最初からそのつもりだったけれど。どうしてかしら」
「だって。僕が持っているからこそ意味があるものだから」
 道化師はそう彼女に述べる。
「僕がいなくなったら何の意味もないから。だからいいよ」
「いいのね」
「うん」
 そしてまた答える。
「元に返してあげてもいいし。といっても僕がいなくなったら自然とそうなるけれど」
「そうなの」
「そういうこと。それじゃあね」
 地面が近くなっていた。それは仮面だけになっていた道化師にもわかった。
「これで。さようなら」
 仮面は地に落ちて割れた。笑みも涙もそのままにして割れた。割れた仮面はそのまま破片が宙に消えてそのままなくなってしまった。まるで幻の様に。
 仮面が割れると共に壁にあった美女達の顔もなくなってしまった。全ては最初からそもそもなかったかのように消え失せてしまったのであった。
「これで終わりね」
 沙耶香は地面に降り立った。そうしてそこで言うのであった。
「この事件は。さて」
 事件が終わったのを感じながら煙草を取り出した。それに火を点けてまず吸った。
 大きく煙を吐き出して。それから踵を返してそのままそこを後にする。そうして夜のニューヨークの何処かに姿を消したのであった。後には何も残ってはいなかった。

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