暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
侵食する意思
[3/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
せないのだ。
 こんなことは初めてで、声の消し方も分からない。

 なら、実体の封印を解くまでの間、ロザリアは玩具だと思えば良いのだ。
 愛する者と繋がっている間は、煩わしい叫びも多少なり大人しくなる。
 駄々を()ねる幼児に、玩具や人形を宛行う感覚でいれば良い。

 そう、自分に強く言い聞かせながら。
 長衣の袖で額の血を拭い、再び階段を上っていく。



 早朝。
 信徒を迎え入れる為、敷地内の各所で鍵を開いてから礼拝堂へ戻ると。
 祭壇の前に見慣れない人影があった。

 礼拝堂の鍵は既に開けておいたから、誰が居てもおかしくはないが……
 空が白みだすにもまだ早い、熱心な信徒でも来ない時間帯だ。
 この時間にクロスツェルやロザリア以外の人影があること自体、珍しい。

 首を傾げつつ、その人影に歩み寄ると。
 短い金髪をさらりと揺らして、澄き通った紫色の虹彩が振り返った。
 まるで遠景の麦畑に訪れた夕闇のような色彩だ。
 吊り上がった目尻が冷たい印象を与える、外見では二十代前半の男。
 体に沿う真っ黒な上下服と黒い靴で、均整が取れた輪郭を強調している。
 その胸元には、アリア信徒の証である銀製のペンダント。
 子供の拳程度の大きさで『月桂樹の葉をくわえた水鳥』の形をしている。

 やはり、信徒か?

 しかし男は、クロスツェルの真っ白な長衣を上から下まで観察し。
 突然、息を溢すように小さく笑った。

「……何か?」

 初対面の相手を見下す男の態度に、若干気分を悪くするが。
 ここに居るのは神父クロスツェルであり、礼拝に来た信徒らしき人間だ。
 それらしい言動と対応を心掛けねばならない。

「いや。なかなか面白い姿だと思ってな」
「面白い?」

 なんだ?
 クロスツェルは普通に神父の格好をしているだけだ。
 この姿のどこに、面白いと感じる要素が…………

 待て。
 この声には覚えがある。
 ずっと昔から知っている。
 芯が通った、力強くも甘い声。

 これは……この男は。

「そうだろう? 数千、数万の時を経ても滅多に見ない傑作だと思うがな。殺したい相手に仕える気分はどんなものだ? ベゼドラ」

 反射で数歩後ろに飛び退いた。

 やはり、そうだ。
 アリアに封印された時にも聞いた声。
 かつては悪魔の頂点に座していた男。

「貴様……レゾネクトか!!」

 髪の長さも容姿も、見知ったそれよりは、いくらか若いが。
 色彩と声だけは変わっていない。
 闇に属する者の、王。

「何故……何故貴様が、現代、この世界に居る!? アリアが現れる以前に、勇者一行共々、異空間へ飛ばされていた筈だ!」

 レゾネクトは両肩を
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ