侵食する意思
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スツェルの想いの大半は捏造されたもの。
虚構の筈だった。
喰ってしまえばあっさり消化するだろうと踏んでいたのだが。
何故か今、悪魔の意思のほうが、虚構である人間の想いに侵されている。
偽りの想いが悪魔の意識を侵食し。
アリアへの殺意が膨らむ一方で。
それ以上に、ロザリアへの想いが胸を占めていく。
礼拝堂で喰らう女達と同様に、壊れるまで犯して意思を奪いたい。
身も心も、すべてを優しく包んで護りたい。
地下室から解放して、自由に駆け回る彼女の笑顔を見つめていたい。
殺意と同時に存在する、矛盾した複数の想い。
それだけの想いを募らせたのは、禁欲の反動なのか。
それとも、元々隠し持っていた衝動だったのか。
どちらにしても、面白くはない。
あれはロザリアだが、やはりアリアで間違いないのだ。
殺しても殺し足りない、美しくも忌々しい女。
「……っくそ!」
螺旋状の階段を上っていく途中、石壁で頭を叩いた。
痛みは感じるが、苛立ちで濁った思考はまったく晴れない。
力が要る。
もっとたくさんの強い力が。
少しでも早く、少しでも多く。
だが。
痕跡も証拠も残らないとはいえ。
手当たり次第に喰らい続けるのは、利口なやり方ではない。
できる限り顔見知りが少ない、唐突に消息不明になっても大事にならない女を選んではいたが、既に数人の信徒が失踪した形になっている。
教会繋がりの失踪者が立て続けに出れば、教会に生活の拠点を置いている神父が不審に思われる。
教会の近辺で必要以上に問題を起こせば人間共が寄り付かなくなり。
信徒の減少はロザリアの封印に綻びを作ってしまう。
そうして力が戻ったロザリアは、確実に教会から逃げ出すだろう。
彼女を教会に繋ぎ止めていたクロスツェルはもう、いないのだから。
そうはさせるか、と思った瞬間。
鋭い痛みを訴えたのは、壁に叩き付けた頭ではなく、胸の奥。
失う恐怖で締め上げられた心臓。
「……黙れ! お前が望んだことだ!」
どこにも行かないで。傍に居て。
どうか遠くへ逃げて。これ以上は傷付かないで。
生きて。笑っていて。幸せになって。
愛してる。
ロザリア、君を愛してる。
「黙れ!!」
もう一度壁に頭を叩き付けて、クロスツェルの声を掻き消す。
額から伸びた赤い線が、頬から顎へと伝い、雫となって床に落ちた。
「面倒な……。殺してしまえば一夜と掛からずに終わらせられるものを」
血が滲むほどの力で唇を噛み、地下室を睨むが。
結局、クロスツェルの声が聴こえ続けている限りは、どれだけロザリアを殺したくても、絶対に殺
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