26部分:第二十六章
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は黒薔薇が一輪現われた。どちらかというと紅に近い、そうした色の黒薔薇であった。
「薔薇なのね」
「黒だけれど。いいかしら」
そう美女に問う。
「よかったら貴女にあげるけれど」
「ただの黒薔薇ではないわね」
美女はすぐにそれを見抜いた。見ればその薔薇は確かに普通の薔薇ではなかった。
「水晶で作られた薔薇ね」
「わかったのね」
「ええ。その輝きでね」
見ればその薔薇は独特の輝きを見せていた。黒い光を放ってそこに咲いている。しかも水晶は本物であった。水晶の薔薇の光が美女の顔をも照らし出していたのであった。
「わかったわ」
「薔薇を一輪。その胸に」
そう美女に告げる。
「そして今から」
「ええ。今から」
二人で言葉を重ねさせていく。
「二人で快楽を」
沙耶香は美女の胸にその黒水晶の薔薇を捧げて何処かへと消え去った。暫くして彼女が姿を現わしたのはブルックリンにあるホテルの前であった。このブルックリンではとりわけ有名な高級ホテルである。その前に姿を現わしたのである。
「さて、と」
ホテルから出たところで懐から時計を取り出す。それは銀の鎖で繋がれた黒い懐中時計であった。それで時間を見たのである。
「もうそろそろいいわね」
時計を見て呟く。既に周りは太陽のぬくもりが消えており赤から紫になり、そこから黒になろうとしていた。そうした時間であった。
「それじゃあ」
時計を収め煙草を出して指から出した火を点ける。そうして煙草を美味そうに吸いながら何処かへと向かうのであった。その身体に濃厚な退廃をまといながら。
ブルックリンは夜の闇に包まれていた。その中の黒がかった煉瓦の建物を左にした寂しい場所に彼女がいた。沙耶香はそこを一人で歩いていたのであった。
灯りもない。この日は月さえ姿を現わしてはいない。夜の闇だけがそこにある。人気なぞ何一つなく鼠の気配さえない。だが沙耶香はそれでもそこを前に進むのであった。
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