23部分:第二十三章
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こには恩なのは誰もいないのであった。沙耶香はそのことに内心落胆していたのであるがあえて顔には出さなかった。
「どうやら違うみたいね」
「生憎ね。ここはむさ苦しいところなんでね」
中々整った顔立ちのヒスパニックの若者が答えてきた。その手のバスケットボールを指先でくるくると回転させながら。
「女の子はいないさ」
「そうなの。わかったわ」
「女の子ならここを出て暫くしたところだな」
黒人の若者が後ろにある公園の出口を親指で指差してみせた。
「そこに俺達のスクールがあるからさ」
「まあそこに行けばクラブで誰か残ってるさ」
白人の若者も言う。
「チアガールとかそんなのがさ」
「チアガールね」
沙耶香はチアガールと聞いて顔を少し綻ばせた。笑顔だがやはりそれは沙耶香の笑顔であった。何処か獲物を前にして微笑む感じであった。
「それは面白いわね」
「面白いのかね」
「ええ、面白いわ」
彼等に対しても目を細ませて述べる。何かを期待する目であった。
「それだと色々と」
「たださ、まだ警官がいるかも知れないけれどな」
「そっちは気にしないでくれよ」
「警官?ああ、あれね」
何があったのかはわかっていた。あえて聞かなかったのだがそれでも若者達が自分達からそれを言うのだった。沙耶香もそれを読んでいたが。
「知ってるみたいだな」
「まあそうだろうな」
彼等は沙耶香の態度をそう解釈してまず仲間内でまず言い合った。
「かなり有名になってるしな」
「仕方ないか」
「一応そうした話はあったけれどさ」
彼等は仲間内で話をした後で沙耶香にも言ってきた。
「気にしないでくれってのは無理か」
「だろうな」
「別に気にはしていないわ」
しかし沙耶香はあえてこう述べてみせた。
「少しは気にしているけれど」
「少しか」
「ええ、少し」
少しと言っても程度があるのだが。それについてはあえて言いはしなかった。これは嘘ではなく言葉のレトリックである。沙耶香はそれを使っただけだ。言葉の魔術を。
「けれど少しだから安心していいわ」
「まあそれならな」
「じゃあな。日本人のお姉さん」
「ええ。機会があればまた」
前を進み若者達と別れる。その時に振り向いて挨拶を述べるのであった。
「会いましょう」
挨拶を告げると学校に入った。アメリカの学校らしくかなりオープンな感じであり中も日本の学校に比べるとかなりカラフルであった。沙耶香はその学校の中をまるで最初からそこにいるかのように自然に歩いていた。学校の中はクラブで遊んでいる若者達でまだあちこちごったがえしていた。沙耶香はその中でグラウンドの奥にある体育館に向かったのであった。見ればそこでは赤と白のユニフォームに身を包んだチアガール達が練習に励んでいた。その中で一人の黒
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