19部分:第十九章
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ないのよ」
「それはまた凄いね」
これがキリスト教圏の者には驚くべきことなのだ。言うまでもなくキリスト教圏においては同性愛は恐るべき悪徳であるからだ。オスカー=ワイルドもこれで捕まっている。なおワイルドは十九世紀の人間だ。十九世紀においても欧州では同性愛は逮捕され裁判にかけられるべき大罪であったのだ。これを聞いて首を傾げる日本人は多い。好みでなくともだ。
「恐ろしい国だよ、日本は」
「その恐ろしい日本人が聞きたいことだけれど」
「一緒にこのミュージックホールに入るとか?」
青年は二人の背景にあるその赤褐色のミュージックホールを親指で指し示した。見ればかなり古い建築であった。
「ここでかしら」
「この街の名物さ」
青年は笑って沙耶香に説明した。
「十九世紀からあるな。どうだい?」
「悪いけれどそれは遠慮しておくわ」
沙耶香はまた目を細めさせて彼に述べた。
「それよりも朝食を」
「おや、それは残念」
青年はそれを聞いてまた肩をすくめさせた。
「俺は帰ってからルームメイトとサンドイッチの予定だからね。一緒になれそうもないな」
「そうみたいね。それでだけれど」
「朝食ならあそこがいいぜ」
青年はすぐにすぐ側にあるハンバーガーショップを指差した。如何にもアメリカといった感じのやたらと赤や黄色が目立つ派手な外観の店であった。
「サンドイッチもあるしな」
「美味しいのかしら」
「日本人が味わってもな」
あえてこう言ってみせてきた。
「満足できると思うぜ。少なくとも俺のルームメイトはそうさ」
「そう。じゃあ信用していいかしら」
「俺は信用できる男で有名なんだ」
アメリカンジョークを次々と言うが。それでも彼が裏のない信用できる青年であるということは沙耶香にもよくわかった。
「俺もあそこは好きだぜ」
「そう。じゃあ頂くわ」
その話を聞いて決めた。
「サンドイッチでも」
「ああ。じゃあな、日本人のお姉さん」
青年はそこまで言うとまたランニングの姿勢に入った。
「サンドイッチを楽しんでくれよ」
「ええ。機会があればまた」
青年に挨拶を告げて懐から何かを取り出した。
「会いましょう。これはその時までのチケットに」
「おっ、悪いね」
沙耶香はその何かを青年に投げ渡した。それは赤いダリアであった。
「こんなもの貰えるなんて。俺も大した色男だね」
「美人に何かを教えるというのはそれだけで色男よ」
そう青年に告げて媚惑的な微笑を浮かべるのであった。
「だからよ。贈り物と考えてくれてもいいわ」
「わかったよ。じゃあな」
「ええ、また」
青年に別れを告げてそのハンバーガーショップでサンドイッチを注文して食べる。青年の言葉通りそれは確かに美味かった。コーヒーも絶品であった。
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