16部分:第十六章
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第十六章
「そうなら」
「けれど私はここにいるわ」
また沙耶香の声がした。
「間違いなくね。さあ、何処にいるのかしら」
「ふうん。どうやら」
道化師はここでふと思った。
「目に見えるものを信じちゃいけないみたいね」
「目なのね」
「うん、だからお姉さんがわからない」
彼はそう結論付けた。そうして今度はその目を閉じるのであった。仮面の中で光る筈の光が消えた。道化師が目を閉じたのがわかる。
「見えないよ。けれど」
その中で言うのだった。
「お姉さんが見えてきた。お姉さんは」
「さあ。何処にいるのかしら」
「そこだねっ」
宙に浮かぶ月めがけてナイフを投げた。白銀の満月に一本のナイフが吸い込まれる。それは月の光を浴びて眩く輝いていたのだった。
月をナイフが貫く。だが月は急に消えてそこには何もなかった。
その隣に沙耶香が現われる。月が消えて沙耶香が姿を現わす形になっていた。
「かわしたね」
「そうよ。よくわかったわね」
沙耶香は相も変わらず余裕の笑みを見せて道化師に対して言った。
「私が月として化けているなんて」
「それは簡単だったよ」
道化師は笑ってそう返す。ふわふわと舞う木の葉の上に立っていた。その上で腕を組み悠然と宙に浮かんでいたのであった。
「だって。今まで月はなかったじゃない」
「ええ、そうよ」
沙耶香は笑ったままその言葉に答えた。
「あえて魔術でそう見せていたのだけれどね」
「幻の術だね」
道化師にはそれが何の術かすぐにわかった。
「それで隠れていたんだ」
「そうよ。ただ」
「ただ?」
「私の術は特別よ。これで終わりだと思えるのかしら」
「じゃあまだ術を使っているんだ」
「かも知れないわよ」
惑わせる笑みであった。その笑みで道化師の仮面を見ていた。見ればもうその仮面から光が見えている。目を開いているということがそこからわかった。
「ひょっとしたらね」
「じゃあ。今後はどうしようかな」
「生憎だけれどどうこうする必要はないわ」
こう言葉を返した。
「こちらも。そろそろね」
「そろそろ?」
「仕掛けさせてもらうわ」
そこまで言うと姿を消した。また何処かへと姿を消したのだった。
「こちらも。さあ」
「今度はお姉さんから攻めて来るんだ」
「私の攻めは厳しいわよ」
紫苑の夜の中で沙耶香の声だけが聞こえる。その中で何かが煌いた。
「んっ!?」
それは青い氷であった。氷の刃を小刀にして道化師に向けて放ってきたのだ。
「氷・・・・・・」
「ナイフと違ってこれは少し厄介よ」
また闇の中から沙耶香の声がした。
「煌くことは煌くけれどそれはナイフ程ではないし」
「そうだね」
それは道化師にもわかる。しかし彼はそれを知っても動
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ