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黒魔術師松本沙耶香 仮面篇
16部分:第十六章
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じてはいなかった。
「見えにくいしそれに闇にも溶け込むし」
「そう。そこに見えている氷が全てではないわ」
 つまり浮き出ているものもあれば見えてはいないものもあるのだ。これこそが沙耶香の魔術であったのだ。
「見えていないものもね」
「闇の中にもあるってことだね」
「貴方に相応しいと思うけれど。同然私にも」
 闇の住人である道化師に対する言葉であった。それと共に闇の中で花を愛でる彼女自身に対しても言うのであった。つまり自分自身への言葉でもあったのだ。
「どうかしら、それは」
「そうかもね。ただ」
 道化師はそれを言われてもまだ余裕を見せていた。
「僕もこの程度は避けられるから」
「またナイフを使うのかしら」
「それだと芸がないよね」
 そう沙耶香に言い返した。
「だからここは」
「ここは?」
「こうすることにするよ」
 木の葉の上で宙返りする。そうしてそのまま闇の中に消えた。
「消えた!?まさか」
「消えたといってもお姉さんのそれとは違うよ」
 今度は道化師の声が闇の中に響いた。
「少しね。それがどう違うかわかるかな」
「手品かしら」
「まあ近いね」
 あえて答えは言わない。それでも状況を楽しんでいるのはわかる。
「けれど。それでも違うんだ」
「気配は感じるわ」
 沙耶香はそれは感じていた。だから彼がまだ戦うつもりだと認識していた。その為その手には紅い雷を漂わせていたのであった。それがバチバチと闇の中で音を立てていた。
「来るつもりね」
「まだ楽しみきっていないから」
 これが道化師の考えであった。彼はあくまで闘いや顔を切り取るのを楽しみととらえていたのである。もっともそれは沙耶香とて同じことであったが。
「だからね」
「そう。じゃあ来るのね」
 氷は全てかわされてしまった。もうそこにはいなかった。
「今から」
「どう来るかは内緒だよ」
 闇の中で笑い声だけがする。
「言ったら楽しくないしね」
「そうね。それは私も同じこと」
 今度は沙耶香が闇夜の中に姿を現わしていた。夜の闇の世界にその姿を浮き立たせたままそこに漂っている。黒い服が闇夜と同化し白い顔と紅い目だけがそこにあるように見えていた。
「さあ。早く来て欲しいけれど」
「言われなくてもね」
 下から気配が来た。
「こうしてあげるよ」
 それはすぐ側にあった。首元から上にかけて刃が振り上げられる。それで沙耶香の顔を切り取ろうというのだ。
 沙耶香はそれを身体を反らせてかわした。あともう少し遅ければそれで顔が切り取られていた。まさに紙一重の差であった。
「身のこなしもいいんだね」
「運動はかかしていないから」
 身体を反らせてそのまま一旦姿を消す。そうして少し後ろに姿を現わすのであった。
「これでもね」
「ど
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