第153話 蔡瑁反乱画策
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蔡瑁の屋敷にある執務室。蔡瑁は豪奢な机を向かい同じく見事な細工が施された椅子に腰をかけていた。彼女は椅子に座し、頻繁に出いりする彼女の部下の報告や届けられる書類に目を通し指示を出していた。
蔡瑁の部下達の報告の多くは徴兵した農民兵の数、雇い入れた傭兵の数、購入した兵糧の量など不穏な単語が飛び交っていた。
慌しく仕事をする蔡瑁の元に張允が訪ねてきた。蔡瑁は人の気配に気づくと書類に目を通すのを止め張允へ視線を移すが、それが張允と分かると興味を失ったように書類に視線を戻した。
張允は蔡瑁に声をかけるのを何度も逡巡した後に意を決したように蔡瑁の前に進み出た。
「伯母上、劉伯母上が私に用があると宜城から迎えが来ています」
張允は蔡瑁に言い難そうに告げた。しかし、蔡瑁は彼女の話など聞こえないかのように書類に目を通しては筆を走らせていた。
「伯母上、宜城に戻ってもよろしいでしょうか?」
張允は蔡瑁にもう一度言った。
「駄目だ」
蔡瑁は書類に視線を落としたまま張允の話を却下した。
「伯母上、劉伯母上からの指示です。無視するのはいかがかと思います」
張允はなおも蔡瑁に食い下がった。蔡瑁は顔を上げ張允の顔を見ると笑みを浮かべて見つめた。彼女の表情は「全て知っているぞ」と語っていた。張允は蛇に睨まれた蛙のように体を固まらせた。
「駄目だと言っている。義姉上の元に行って余計なことを喋られては困るからな」
「劉伯母上は襄陽の様子など既にご存知のことと思います」
宜城と襄陽は目と鼻の先である。張允は自分の存在など関係なく劉表が襄陽の情勢など直ぐに分かると訴えた。
「お前が帰れば義姉上は裏付を得ることになるであろう?」
蔡瑁は視線を上げると感情を感じさせない表情で張允を見た。張允は蔡瑁の言葉に泣きそうな表情だった。
「伯母上、お考え直しくださいませんか?」
張允はうろたえながら蔡瑁を説得した。蔡瑁は冷徹な視線で張允を凝視した。彼女の瞳は張允の言葉に耳を貸すような雰囲気は一切感じられなかった。
「何を考え直すのだ?」
蔡瑁は両目を血走らせ張允を睨みつけた。
「劉車騎将軍と戦うことです。彼は荊州の豪族に檄文を送り兵を募り、冀州からも軍を呼び寄せると噂を聞いています。明らかに分が悪いと思います」
「私は劉正礼に黙って殺されるつもりは毛頭ない。この私に荊州水軍がある限り私が簡単に敗れることはない。長期戦に持ち込めば、劉正礼の威光も地に落ちる。そうなれば劉正礼は私と和睦を結ぶしかなくなる。生き残れば再び劉正礼を殺す機会を得ることができる」
蔡瑁の考えは一理あった。当時、朝廷に反乱を起こしても抵抗が激しく戦が長期にわたった場合、朝廷側が懐柔策をとることはまま
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