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黒魔術師松本沙耶香 仮面篇
12部分:第十二章
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そろ」
「セリアね」
「ええ」
 十九世紀前半のオペラには大まかに分けて二種類存在する。喜劇であるオペラ=ブッフォとシリアスであるオペラ=セリアである。ロッシーニはこちらでも有名なのだ。こちらの代表作ではタンクレーディやセミラーミデがある。こちらも名作だと好評である。
「そちらは歌わないの?」
「そちらもそろそろね」
 シエナは真剣な面持ちで答えてきた。
「挑戦させてもらうわ。まずはセミラーミデ」
「いきなり難役ね」
「そうね。けれど自信はあるわ」
 余裕に満ちた笑みを見せてきた。
「しっかりとね」
「そう。じゃあそちらも期待させてもらうわ」
 沙耶香は期待する笑みを見せてそれに応えた。
「楽しみにね」
「それで。今日はこのまま帰るのだけれど」
「ええ。わかったわ」
 それに応えると共に何かを出してきた。それは。
「ワイン?」
「ええ。一本差し上げるわ」
 先程ボーイに言っていたワインだ。それを今出してきたのである。
「如何かしら」
「有り難う。それじゃあ頂くわ」
「コルクは外していないから」
 その切れ長の目をさらに細めさせて述べる。
「それは安心して」
「わかったわ。じゃあ部屋に帰ったら」
「泊まっているのはこの辺りかしら」
「今日は場所を変えてみたの」
 くすりと笑って沙耶香に告げる。
「少しね。車でそこまで御一緒願えるかしら」
「それが仕事なのだしね」
 目を細めさせたまま言う。その顔は何処か人間のものから外れていた。闇の中に浮か幻想の中に生きている妖精達の様であった。例えて言うならば闇に咲く花の精であろうか。
「では御一緒に」
「あの」
 マネージャーが沙耶香に声をかけてきた。
「シエナは。その」
「わかってるわ」
 マネージャーに顔を向けて細めさせた目で見る。その目の光は妖しいまでに輝く黒い目であった。その目でマネージャーの心の中まで読んでいたのだ。
「貴女がそう言うのなら」
「御願いします」
「?何かあるのかしら」
 事情を知らない沙耶香は目を少ししばたかせて二人に問うた。
「いえ、別に」
 だが沙耶香は同じ笑みでシエナに返事を返すだけであった。
「何もないから。安心して」
「そう。それじゃあこのワインは」
「是非飲んで。アメリカのワインだけれど」
「アメリカのワインね」
「嫌いかしら」
 それをシエナに問う。ここでの答えは沙耶香にとてはどうでもいいものであった。
「いえ、別に」
「そう」
 だからそれ程感情を込めていない対応を見せた。
「だったらいいわ」
「やっぱりイタリアのワインが一番好きだけれど」
「そう言うと思ったわ」
 やはり祖国のワインということだった。ルチアーノ=パヴァロッティもいつも故郷モデナのワインを飲んでいた。ラ
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