第十五章 忘却の夢迷宮
第六話 それぞれの決意
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ジョゼフの唱える呪文を耳にしたアンリエッタが、呟くようにそう口にした。
アンリエッタの言葉に、当の本人であるジョゼフは何の反応も見せずに呪文の詠唱を続けている。アンリエッタはジョゼフの詠唱を聞きながら、かつて耳にした呪文を思い返していた。
「唱える者が違うだけで、こうまで変わるものなのですね」
いつか聞いたルイズの詠唱は、力強く、明日への希望に満ちており、困難に立ち向かおうとする勇気が感じられた。
しかし、今聞いているジョゼフの詠唱は違う。
憎しみや怒り、悲しみに満ちているわけではない。
ただ、そう、ただ、何もないのだ。
何も、感じられない。
いや、一つだけ、あえて上げるのならば―――“絶望”、その感情だろうか?
何かを諦めたような、底のない暗い穴を覗き込んでいるようだ。
アンリエッタが答えのない思考を巡らせている間に、ジョゼフの呪文が完成した。呪文を完成させたジョゼフは、杖とは逆の手に持つ“火石”に向かって杖を振るった。
ジョゼフが唱えた呪文の名は“エクスプローション”。
威力を調整された“エクスプローション”は、決して破られる筈がないエルフの強固な結界に小さな亀裂を入らせた。
直後、ビチチチチ―――と甲高い音が鳴り響き、火石が細く震えだした。
“火石”に押し込まれていた“火の力が溢れだそうとしているのだ。
全員の視線が“火石”に集まる中、ジョゼフは感情の読めない冷めた目つきでそれを無造作にガーゴイルに向かって放り投げた。
放物線を描く“火石”を、ガーゴイルは見事にキャッチし、そのまま甲板から飛び立っていく。
ミョズニトニルンに操られたガーゴイルは、通常のガーゴイルとは比べ物にならない速度でカルカソンヌへと向かう両用艦隊へと飛んでいっている。
既に見えなくなったガーゴイルを思いながら、ジョゼフは間もなく起きるだろう出来事を思い、願った。
今度こそ自分は泣けるのだろうか、と。
涙を流すことが出来るのだろうか、と。
間もなくこの場に地獄が顕現する。
万物を焼き潰す炎が全てを燃やし尽くすのだ。
何千、何万もの命が灰になるだろう。
あらゆる命が、抵抗する事も出来ず無為に消えていくのだ。
それを見て、自分は悲しみを感じられるだろうか?
心の奥では無理だと分かっていながらも、期待してしまうのだ何故だろうか?
未練がましく縋るように無いに等しい可能性に期待しているのは、何故なのだろうか?
チラリと、何とはなしにジョゼフは視線を動かす。
視線の先にはガーゴイルが向かっていった先であった。
ふと、今から起きる光景を見て、この女がどういった反応を見せるのか興味を抱いた。
何千、何万もの兵士たちが死ぬ光景を見て、この女はど
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