第十五章 忘却の夢迷宮
第六話 それぞれの決意
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自由を奪われ、何も出来ない状態であるにも関わらず、アンリエッタは堂々とした態度でジョゼフと相対していた。
「……ふんっ。結局は人任せと言うことか。女王と言っても所詮は女だな。気楽なものだ。信じている。信頼している。きっとあの方なら何とかしてくれる。それで全部放り投げておけばいいだけなのだから。良かったな女で。男の背中に隠れ、終わるのをただ待っているだけで全てがすむのだからな。その報酬は何だ? 金か? 地位か? それとも既にその顔と身体で誑かしでもしていたのか?」
挑発するように顔を近づけながら侮蔑の言葉をかけてくるジョゼフに、ガーゴイルに取り押さえられたアニエスが憤怒の顔で暴れる横で、当の本人は軽く目を見張った後、小さな笑みを口元に浮かべるだけであった。
「残念ながらまだお手つきになっておりませんわ。わたくしなら何時でも歓迎いたしますのに」
「で、殿下っ?!」
アンリエッタがくすくすと笑いながら口にした言葉に、怒声を放ち暴れていたアニエスから詰まった悲鳴の如き声が漏れた。
ジョゼフもまさかそんな返事が返ってくるとは想定外だったのか、呆気に取られた顔をしている。
「それに、気楽と言っておりましたが、随分と見当違いな事を口にされるのですね?」
「……何がだ?」
アンリエッタの笑みを含んだ声に、警戒する様子を見せるジョゼフ。これまでの経験から、こんな様子を見せるアンリエッタは色々ととんでもないことをジョゼフは知っているからだ。
「男と女の違いはありますから仕方がないところもあるのでしょうけど……それでもこれだけは知っていただきたいですわ」
ずいっと一歩前へと歩を進めたアンリエッタに、ジョゼフは身体を微かにだが、後ろへと下げてしまった。
それは周りにいる者でも気付かない程の些細なものであった。
別に怯んだわけではない。
何か仕掛けてくるのかと警戒したわけではない。
ただ、気付けば身体が下がっていたのだ。
当の本人であるジョゼフ自身が困惑していた。
「ッ―――……もう良い。別に知りたいとも思わん」
小さく舌打ちをしたジョゼフは、逃げるようにアンリエッタから顔を離すと、隣に控えるミョズニトニルンに目配せをした。
何かぼうっとしていたミョズニトニルンは、ジョゼフの視線に気付くと何時もの余裕を何処かに置き忘れたかのように慌ただしい動作で近くのガーゴイルを一体ジョゼフの前へと移動させた。
ジョゼフは先程取り出した“火石”に杖を突きつけると、朗々と呪文の詠唱を始める。
甲板に朗々と響き渡るあまり耳慣れない、しかし、かつて一度耳にしたことがある呪文に、アンリエッタはジョゼフの正体を知った。
「……そう、ですか。あなたがガリアの虚無の担い手だったのですね」
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