ベゼドラ
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して自由を取り戻す為に得た、これは仮の器。
だがベゼドラは、人間の妄執の深さをこそ、侮っていた。
「寝る前に礼拝堂へ行け? なんだってそんな夜中に?」
頼まれていた掃除を一通り終えて報告に来たロザリアは。
神父の寝室の手前で突然告げられた内容に、こてんと首を傾げた。
「面白い物を見せてあげようと思いまして。きっと驚きますよ」
「ふぅーん……? ま、別に良いけど」
頭を掻きながら隣の寝室に入っていく彼女を見送り。
クロスツェルの皮を被ったベゼドラは、礼拝堂へと足先を向ける。
この教会の住民は、クロスツェル以外、ロザリアしかいない。
すれ違う信徒は全員通いの者だ。
夕方、教会を閉める時間になれば、皆自宅へと帰っていく。
何をするにも都合が良かった。
礼拝堂に集まっている礼拝客と適当に話しながら、着々と準備を整えて。
そうして、ロザリアが教会に来て一年と四ヶ月目の深夜。
宴は幕を開けた。
「おーい、クロスツェル?」
呼び出しに応じたロザリアが、月明かりを頼りに礼拝堂へ入り込む。
絨毯の上を歩いても足音が響く静寂の中。
祭壇手前の階段下に黒く浮かぶ人影が、驚いた様子で振り向いた。
「チビ?」
「え? あれ、ウェーリ? どうしてこんな時間に居るんだ?」
褐色の肌に銀色の髪と目を持つ好青年は、「さあ?」と首を傾げる。
「帰り際、神父様に呼び止められてさ。チビが来るまでここで待ってろって言われたんだけど……お前が用事あるんじゃないのか? そろそろ本格的に眠いんだが」
「はあ? 私はクロスツェルに呼ばれたから来ただけで……って、なんか、変な匂いがするな。甘いような酸っぱいような」
「ああ、これだよ。さっき神父様が、緊張緩和の効果がある香だとか言って焚いてった。何かの花かな?」
階段を登ったウェーリが、祭壇の上にある白い香壷のフタを開くと。
漂う香りが濃度を増して、二人の鼻をくすぐる。
ウェーリは平気そうな顔で香壷の中身を覗くが。
ロザリアはその場に膝を落とし、床に両手を突いてしまった。
「おい? 大丈夫かチビ……」
振り返ったウェーリがロザリアに駆け寄って、その肩に手を置き。
数歩退いて、どすん、と、階段の上で仰向けに転がった。
何事だと重々しく持ち上げたロザリアの目に。
少し離れた場所で倒れているウェーリの体と。
その心臓の位置に突き立てられた、短剣らしき物の柄が映る。
「…………ウェー……リ?」
「触るな」
愕然としながら、ウェーリに右手を伸ばすロザリア。
その背中を、いつの間にか礼拝堂に来ていた神父が抱きしめる。
「な んだ、これ……? なに、が」
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