第二百十八話 太宰府入りその五
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「なかった、しかしな」
「その水軍をあえてここに集め」
「天下に見せるのじゃ」
「そして天下が」
「織田家に従うのじゃ」
そうなるというのだ。
「まさにな」
「私はこれまで」
鶴姫はここまで聞いて述べた。
「そこまで考えたことはありませぬ」
「左様か」
「しかし、上様のお考えを聞きまして」
九鬼からというのだ。
「変わりました」
「御主はこれまで伊予におったな」
「はい、その海においてです」
「戦ってきたな」
「あくまで伊予だけでした」
鶴姫の戦はというのだ。
「己の家を守る為の」
「そうじゃな、それではな」
「戦わずに降すこともですか」
「知らぬのも無理はない」
そうだとだ、九鬼は鶴姫に穏やかな声で話した。
「それではな」
「左様ですか」
「しかしこうした戦の仕方もある」
「あえて大軍を見せてそのうえで」
「戦わぬ相手まで降すやり方もあるのじゃ」
これが今九鬼が言うことだった。
「それもな」
「ですね、では」
「島津の水軍には気をつける」
しかしというのだ。
「それでもじゃ」
「おそらく島津の水軍は来ない」
「そもそもあまり数もおらぬしのう」
またこのことを語るのだった。
「だからな」
「周りを見つつも」
「今は見せることじゃ」
「この水軍の威容を」
「天下にな」
こう言いつつだ、九鬼は織田水軍、天下の殆どの水軍の精鋭を集めたその軍勢で玄界灘を守っていた。そして実際にだった。
島津水軍は来なかった、このことにだ。
来島もだ、夜に船の中でこう九鬼に言った。
「島津水軍は影も見えませぬな」
「全くな」
「やはりそもそも数がおらず」
「これだけの数の軍勢に仕掛けてもな」
「勝てぬとわかっているのですな」
「そうであろう。まあ来てもな」
若し島津水軍が来てもというのだ。
「誘いには乗らずな」
「鉄甲船を主に使い」
「追い払うだけじゃ」
「島津は釣り伏せを使いますからな」
少数の軍勢で敵を誘い込みあらかじめ伏せておいた主力で横や後ろから攻める、島津の必勝戦術だ。これにより龍造寺も大友も破ってきている。
「海でも」
「使うであろうからな」
「だからですな」
「誘って来ても乗らぬ」
「ただ守りを固めるだけですな、我等は」
「うむ」
その通りだというのだ。
「そういうことじゃ」
「ですな、では」
「もう先陣は玄界灘を渡った」
信玄、謙信が率いる軍勢はというのだ。
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