4部分:第四章
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のです」
「本当ですか?」
「はい。ですから」
彼は言った。
「御安心下さい」
「わかりました」
二人は抱き合った。病の床にあるが彼等の心は今繋がっていた。
女中はそれを見て優しい笑みを浮かべた。そして彼女も決めた。誰かを好きになろう、と。
それから数年経った。舞鶴は今度は警察予備隊という組織の街になろうとしていた。
「あなた」
夫を呼ぶ妻の声がした。
「お仕事に行かれるのね」
「ああ」
若い男が日に焼けた顔を妻に見せた。爽やかな顔をした逞しい男であった。
「今日も稼いでくるからな。楽しみに待っていてくれ」
「ええ、わかったわ」
妻はそれに頷いた。そして夫を送り出したのであった。
見ればあの女中であった。彼女はあれから街で知り合った復員兵と知り合い恋に落ちたのであった。そして今はこうして家庭を持っている。小さい一軒家に家族と一緒に住んでいる。つつましやかだが幸福な生活を送っていた。
「お母さん」
家の奥から彼女を呼ぶ幼い声がした。
「何?」
声のした方に振り向く。見れば小さな女の子がいた。
「今日お屋敷の方に行くの?」
「ええ」
彼女は優しい頬笑みを娘に向けて答えた。
「そうよ。楽しみにしててね」
「奥様お元気かしら」
「とても元気よ」
娘にそう言った。
「とてもね。だから楽しみにしてて」
「うん」
「昔はね、奥様も大変だったのよ」
「そうだったんだ」
「胸のご病気でね。けれど今は治ったのよ」
「胸が苦しかったの?」
「そうよ。とてもね。けれど治ったの」
「お薬で?」
「いいえ」
しかし彼女はそれには首を横に振った。
「好きな人のおかげで」
「旦那様のかげなの?」
「そうなのよ」
娘に対して答えた。
「貴女もね、大きくなればわかるわ」
「何が?」
「好きな人がいることの大切さよ。それを知りなさい」
「よくわからないけれど」
娘は首を傾げながら言う。女中はその仕草がまたたまらなくいとおしかった。今では娘も彼女にとって大切なものであったからだ。
「わかった。わたし大きくなったら誰かを好きになる」
「そう、それがいいわ。じゃあ行きましょう」
「うん」
娘を連れて屋敷に向かった。懐かしい屋敷に。
舞鶴の夏はその日も暑かった。だが二人はその中をうきうきとした気持ちで歩いていくのであった。
支え 完
2005・8・5
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