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支え
4部分:第四章
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いる意味がないもの」
「お嬢様」
 普段ならここで強い声で諫める。しかしそれもできはしなかった。それができる状況ではなかったからだ。
「いえ、いいです」
「待ちましょう、今は」
「はい」
 潤子の言葉に頷いた。
「待っていれば忠行様はきっと来られます」
「わかりました
 今度は潤子に従うことにした。何はともあれ問題はこれからだと思った。
 どうなるか本当にわからない。不安が心を支配する。それと戦うことがまずはじまりであるように思われた。
 数日経った。まだ連絡はない。夏の暑さだけが増していくように思われた。
 その中で潤子は一言も言わずただ床に伏していた。女中はそれを見守っていた。
 時間だけが過ぎていく。忠行は帰ってはこない。潤子の身体は血を吐くこともなく穏やかな様子であったが病というものはその間にも進行していくものである。女中は気が気ではなかった。

 九月になると連合軍が日本にやって来るという話になった。それを聞いて心はさらに不安なものになった。
「まさか日本を潰すつもりじゃ」
 女中は次第に夜も寝られなくなってきた。どうなるのか怖くなってきた。不安で不安で眠れないのだ。
 しかし潤子は落ち着いていた。女中にはそれが不思議なものに思えてきた。ふと言葉をかけられた。
「ねえ」
「何でしょうか」
 見れば病を患っている潤子よりも顔色は悪くなっていた。潤子はその顔を見ながら声をかけてきた。
「気にかけてもどうにもならないわよ」
「そうでしょうか」
 女中にはそうは思えなかった。
「このままでは私達は」
「私はね、待っているだけだから。だから落ち着いていられるのよ」
「忠行様をですか」
「ええ」
 彼女は頷いた。
「貴女もね。待っているといいわよ」
「お嬢様には待てる方がおられますね」
「勿論よ」
「けれど私には」
 彼女はそう言って顔を背けた。
「そうした人はいないです」
「好きな人はいないの?」
「はい」
 そして答えた。
「そうした人は。今までおりませんでした」
「じゃあ作ればいいわ」
「作ればですか」
「そうよ」
 潤子は言った。
「作ればいいのよ、これから」
「けれど今は」
「あのね」
 引っ込もうとする女中に対してさらに言った。
「どんな状況でも好きな人は作ることはできるわ。私だってそうだし」
「お嬢様が」
「そうよ。今私は胸を患ってるわね」
「はい」
「患ってからかなり経つわね。本当ならもう死んでいてもおかしくはないわ」
 潤子が胸を患ってからもう何年も経っていた。普通なら病状はより進行している筈だった。死んでいてもおかしくはない頃であった。だが彼女はそれ程病は進行してはおらず血を吐かないことも多い。医者もそれが不思議だと言っていたものである
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