4部分:第四章
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座った。居間の壁にある時計を見ればもうすぐ正午であった。
正午になった。時計の音がそれを告げる。するとラジオから声が聞こえてきた。
「朕深く」
「これは」
「陛下のお声だ」
父が使用人の一人にそう答えた。
「謹んで御聞きするようにな」
「はい」
皆それを受けて完全に沈黙した。ラジオから聞こえる陛下の御声と部屋の外から聞こえる蝉の声以外は聞こえなくなった。いつもなら五月蝿く思える蝉の声も不思議な程静かに聞こえた。
「億兆の赤子を保し」
それを聞いて自分達のことだ、と思った。次第に何を仰っているのかわかった。
「諸盟邦に対し遺憾の意を表せさるを得す」
「うう・・・・・・」
それを聞いて誰かが泣く音が聞こえてきた。
「よせ」
父がそれを止めようとする。だがその父も泣いていた。あの厳しい父が泣いていた。
「泣くな」
「しかし」
それを止める者まで泣いていてはどうしようもなかった。
「難きを堪へ忍ひ難きを忍ひ」
「負けたんだ」
また誰かが言った。
「日本は戦争に負けたんだ」
「負けた」
潤子はそれを聞いてまずは自分の耳を疑った。日本が戦争に敗れるとは。
「連合軍に負けたんだ」
「言うな」
そう言う父の声にはもう涙が滲んでいた。
「そんなことは言うな」
「しかし」
「言うなと言っているんだ」
もう涙が止まらなかった。
「終わったんだ、何もかも」
「戦争も。そして」
「日本も・・・・・・」
「臣民其れ克く朕か意を體せよ」
それが最後の御言葉であった。こうして玉音放送は終わった。終わった時には何もかもが終わってしまっていた。
潤子はそれが終わった時には完全に放心状態になっていた。負けたということはわかったがそれが一体どういうことなのか理解できなかった。不意に隣にいる女中に問うた。
「ねえ」
「何でしょうか」
見れば女中も同じであった。放心していた。
「これからどうなるのかしら」
「わかりません」
彼女もそう答えるしかなかった。
「どうなるのでしょう、一体」
「わからないのね」
「申し訳ありません」
謝るその声にも心はなかった。
「じゃあいいわ。帰りましょう」
「けれど」
「いいのよ。もう何もかも終わったのだから」
目の前では男達も女達も泣いていた。涙が止まらない。それは潤子も女中も同じだった。
「そうでしょ」
「わかりました」
二人は流れる涙をそのままにして部屋に戻った。潤子は床に入ってからあらためて女中に声をかけた。
「忠行様はどうされるのかしら」
「わかりません」
本当に何もわからなかった。
「戻ってこられたらいいですが」
「戻ってこらrたらいいわね」
潤子はそれにそう答えた。
「そうでなければ。もう私は生きて
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