巻ノ六 根津甚八その五
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「一人をよってたかってとは、馬鹿かあの者達は」
「うむ、そうじゃな」
「しかも武器を持たぬ者を襲うとはな」
「人として許せぬわ」
穴山と由利、海野も言う。三人も清海と同じく前に出ようとする。だが幸村はその三人を止めたのだった。
「いや、待て」
「しかし殿」
「あの御仁は一人ですぞ」
「しかもあの者達明らかにならず者です」
「どっちが悪いかは明白です」
四人は自分達を止めた幸村にも言った。
「ここであの御仁に助太刀をせずして何としましょうか」
「それでは男が廃ります」
「義を見てせざるは勇なきですぞ」
「殿、義を忘れてはなりません」
「拙者が行く」
男は逸る四人にこう返した。
「御主達はそこで見ておれ」
「殿がですか」
「自ら行かれるのですか」
「そしてそのうえで」
「あの方に助太刀されますか」
「うむ、それにあの御仁はな」
むしろというのだった。
「一人で充分じゃ」
「あのならず者達の相手が出来ますか」
「一人で武器も持っていないというのに」
「腰にも背にも木刀一本ありませぬ」
「それでもですか」
「武器を持たぬとも戦は出来る」
幸村はこうも言った。
「充分な」
「では拳ですか」
「体術を使いますか」
「それで勝ちますか」
「ならず者達に」
「うむ、しかしお一人ではやはり遅れを取る」
だからとも言う幸村だった。
「だから拙者が行かせてもらう」
「では」
「殿、ご武運を」
「それではな」
幸村は四人に応えてだ、今まさに喧嘩に入ったその中において。、
素早く入りだ、男の横に来て言った。
「助太刀致す」
「貴殿は」
「真田幸村と申す」
幸村はすぐに名乗った。
「見たところ貴殿はお一人、ですから」
「助太刀に参られたか」
「左様、それで刀」
「いり申さぬ」
男は笑って幸村に答えた。
「しかもこの者達ならば」
「刀を使わずとも」
「はい、倒せます」
「見たところ貴殿は刀術、忍術を使う様でござるが」
「忍術を使うことまでおわかりか」
「身のこなしで」
それがわかるというのだ。
「ある程度は」
「左様でござるか、実はそれがし忍術も使いまする」
実際にとだ、男も答えた。
「そのことまでお見抜きとは」
「おい、何か若いお侍さんまで来たけれどな」
「二人に増えたところでどうだってんだ」
「こっちは十人、しかも一人は刀も持っていない」
「それでどうして喧嘩するっていうんだよ」
「無理に決まってるだろ」
「無理かどうかはこれから見せる」
男はならず者達に確かな声で答えた。
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