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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
20.また出会う日まで
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なに怒って――」
「ちょっと黙っていてくれるかな、リングアベル。彼の一族というのはね……一種の『化物』なんだよ」

 ぞっとするほど冷たい言葉だった。ベルも突然の主神の豹変に困惑するばかりだ。
 
 グリード――ユウとジャン以外は知らないが、その名はゼネオルシア家の先代当主……ひいてはユウの父親に当たる人物の名だ。数年前に病でこの世を去ったが、少なくともユウにとっては厳格で頑固な父親程度にしか思っていなかった。その血縁であることを理由に、目の前の神は一人の人間と相対しているとは思えないほどの警戒を注いでいる。

 ゼネオルシア家が常に正義だったとは言えないことくらい、ユウもジャンの態度から察していた。
 大きくて歴史の長い家だ。過ちもあったろうし、当前敵だっているだろう。

 正教有力5家と呼ばれる5つの名家の中でも、ゼネオルシア家はクリスタル正教初代教皇の血を脈々と受け継ぐ最有力の一族だ。そのゼネオルシア家の顔色を、周囲は異常なまでに伺っている節がある。疑問に思って調べたこともあったが、書斎に置かれた様々な本の記述には意図的に空白にされた歴史が数多くあり、結局詳しい事は分からず仕舞だった。
 それだけゼネオルシア家が得体のしれない何かを抱え込んだ一族であるのは確かだ。

 本来ならばグリードから現当主であるユウに受け継がれるべき伝承の類があった筈だが、晩年のグリードは既にゼネオルシア家の未来というより、ごく私的な目的のために奔走していたように思える。唯一腹違いの兄は何かを知っているようだったが、その兄もとある理由から失踪した。

 そのような事情を含めて――ユウは、ゼネオルシアという家をあまりに知らな過ぎた。その家の次期党首であるにも拘らず。

「俺の家が、化物………?貴方は、俺の知らない何を知ってるんですか……!?」
「………本当に心当たりはないのかい、君は?どうやらグリードも自分の息子は猫かわいがりしたいらしい。自分のやったことを棚に上げて――」
「オイ、ヒモ神。てめぇ、それ以上ユウにちょっかい出すんならケンカとして受けて立つぜ」

 ジャンが犬歯を剥き出しにして剣に手をかけた。実際に抜きはしないものの、噴出する怒気は神のオーラに負けるとも劣らない。咄嗟にベルも身構える。いくらなんでも目の前でヘスティアに手を出させる訳にはいかないからだ。
 今までのベルなら腰が引けていただろうが、シルバーバックという強敵との戦いを乗り越えて一回り成長した彼は、精一杯の警戒をジャンにぶつける。

「どけよ、腰巾着。邪魔するならテメェにも『牙』をぶつけんぞ」
「どけません……僕は、へスティア・ファミリアの冒険者です……神様にみすみす手を出させはしない!」

 
 部屋の空気が一気に剣呑なものに変貌する。
 
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